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国際シンポジウム「大学における外国語教育の二つの挑戦:多言語教育と自律学習」 挨拶 (2008年1月26日)

尾池 和夫

この国際シンポジウムのテーマは「多言語教育」と「自律学習」という二つの重要な言葉で表されています。京都大学はこの二つの言葉にたいへん深く関心を持っています。

多言語教育という面では、京都大学は日本の他の大学に比べて、学生がより多くの外国語を学習できる機会を用意しています。現在、学習できる外国語は、英語、ドイツ語、フランス語、中国語、ロシア語、イタリア語、スペイン語、朝鮮語、アラビア語の合計9か国語と、留学生向けの日本語とがあります。これらは全学共通科目として、いわゆる教養科目として開設されている外国語ですが、その他の形で開設されている外国語も加えるともっと多くの科目を開講しています。しかも選択する外国語数の制限がありませんから、好きなだけ学習することができます。

自律学習という面でも大きな成果をあげています。CALL(Computer-Assisted Language Learning)を活用した外国語の自律学習の方式を、全国の大学に先駆けて実施し、今では学習のモデルと言われています。現在、年間1000名以上の学生が、この自律学習によって英語の単位を取得しています。英語以外の外国語についても、この自律学習を実施していく方針で教材開発を進めています。

「多言語教育」と「自律学習」は、京都大学の外国語教育の大きな2本の柱であり、京都大学の基本理念に基づいているものです。基本理念の「教育」のところには、「京都大学は、多様かつ調和のとれた教育体系のもと、対話を根幹として自学自習を促し、卓越した知の継承と創造的精神の涵養につとめる」とあります。

大学レベルで外国語の自律学習を世界で初めて実施したのは、京都大学客員研究員でこの会場にいらっしゃるアンリ・オレック先生です。先生は自律学習の仕方を教えることが重要であると言われます。大部分の学生にとって大学は教育を受ける最終の教育機関ですが、学習は生涯続きますから、ここで自律学習能力をしっかり身につけておくことが必要です。

さらに基本理念には、「京都大学は、教養が豊かで人間性が高く責任を重んじ、地球社会の調和ある共存に寄与する、優れた研究者と高度の専門能力をもつ人材を育成する」とあります。「地球社会の調和ある共存に寄与する」ひとつの方法は、英語の以外の外国語も学習し、ことばの運用能力だけでなく、多極的世界観を身につけ、相手を理解することから始まると思います。英語以外の外国語を廃止したとか、英語の必修単位を極端に多くして他の外国語の単位を少なくした大学もありますが、私には賛成できません。その立場からも、今回のシンポジウムの開催趣旨はたいへん重要と思っています。

入学式の式辞で私は、「皆さんはぜひ、それぞれの母国語をまず大切にして、母国語による表現の技術をしっかり磨き、さらに国際語としての英語と、最低もう1か国語は学習するようにしてほしいと思います」と話しました。

母国語というのは、今のようにスピーチの最中でさえ、大脳の中でものを考えるときに使っている言語のことです。私たちは母国語で思索します。それによって自分の国の文化を育てます。わたしの専門は地震学ですが、東アジアの文化は変動帯の文化です。大地の動かない安定大陸の文化を育てたフランスやドイツの言語では、変動帯の文化を語ることが困難です。例えば、“一椀の葛湯をたのむ地震のひま”という大石 悦子さんの句があります。ここで地震を大和言葉で「なゐ」と読みますが、もともとのフランス語には地震という短い単語がなく、tremblement de terre と言います。

国際語というのは、今は英語であり数十年は英語であろうと思います。今、英語を使う世界の人びとの4人の内3人は英語を母国語としない人たちです。したがって私は英語を学習するとは言わずに、国際語を学習することを学生たちにすすめます。そしてさらにもう1つ外国語を学ぶようにすすめました。何よりも自国の文化をしっかりと身につけて、学習した言語でそれを語ってほしいと思っています。

今回の国際シンポジウムがきっと有意義なものになると思いつつ、私の挨拶といたします。多くの方々に参加していただき、本当にありがとうございます。ご成功を祈っております。

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