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金森 博雄先生京都賞受賞記念シンポジウム 挨拶 (2007年11月7日)

尾池 和夫

金森 博雄先生の京都賞受賞、まことにおめでとうございます。この受賞を記念して、京都大学21世紀COEプログラムである「活地球圏の変動解明(KAGI21)」のグループと防災研究所地震防災研究部門が主催するシンポジウムが開催されることになりました。たいへん時宜を得た企画であり、その準備を熱心にされたメンバーの方々に心から感謝いたします。また、授賞式の忙しい日程の中、京都大学宇治キャンパスを訪れて、このシンポジウムにご参加下さった金森 博雄先生に、お礼を申し上げます。

このシンポジウムには「Cキューブ-地震学新時代への鍵」という題が付けられました。プログラムの第1部は「Gc(地震の破壊エネルギー)」となっており、

「Gc と near-fault energy (1)」、福山 英一(防災科学技術研究所)
「Gc と near-fault energy (2)」、三雲 健(京都大学名誉教授)
「Gcはなぜスケールによるのか」、井出 哲(東京大学 理学研究科)

のご講演があります。

金森 博雄先生は、1962年に東京大学理学部助手になられましたが、66年には東京大学地震研究所助教授、69年にはマサチューセッツ工科大学客員教授で、1970年には東京大学地震研究所教授となられました。そのころ地震研究所では紛争が続いており、その中で金森先生はカリフォルニア工科大学の教授に就任されました。その後、目覚ましいご活躍の中で、アメリカ合衆国地震学会会長を、1986年までつとめられました。私が地震学会の委員長をしていたときで、日米で合同の地震学会を開こうという相談をしたことがありました。

1990年からは、長期間にわたって、カリフォルニア工科大学地震研究所の所長をつとめられ、世界の地震学者を育ててこられました。

カリフォルニア工科大学の名誉教授となられた後、名古屋大学客員教授となって、私が1年前の10月、名古屋の講演会に中日新聞に招かれて参りますと、安藤 雅孝教授と一緒に真正面の席におられて、たいへん面食らいました。

金森先生の前で、モーメントマグニチュードの話や、津波の規模のことや、リアルタイム地震学のことを話すのは、なかなかたいへんなことです。亡くなられた菊地 正幸先生との共同研究は地震学者として忘れることができません。震災の軽減を目指す大きな仕事であります。

金森先生は、1960年のチリ地震の震源断層を分析して、深さ方向の幅200km、水平方向の長さ800kmの断層面上の平均スベリ量を21mと計算されました。1923年の関東地震など、さらに古い地震を含めて多くの巨大地震の解析をされました。その中で、京都大学の阿武山地震観測所などの地震計記録も重要な役割を演じました。また、金森先生の三陸地震の論文は、地震学の講義でいつもテキストに使わせていただきました。

そのような研究の最初で、near field の理論波形の計算結果を確認するために、私もそのお手伝いをしたことが金森先生の論文の謝辞となって残されており、私の大切な思い出の一つになりました。

私の卒業論文は、三雲 健先生のご指導で、震源の仕組みを研究したものでした。その後メカニズム解を求めながら、いろいろ考えていて、丸山 卓男さんの論文から大きな刺激を受け、研究室の雑誌会で、丸山さんの論文を数回にわたって紹介しました。三雲先生との熱心な議論をよく覚えています。そのころ、東京大学の計算センターで動き出した大型計算機で、地震の理論波形を計算していたのが、金森さんと私と島崎 邦彦さんでした。

今日のシンポジウムの第2部は「c-value(余震の確率統計)」で、

「Estimates of c-value and Early Aftershock Sequences for Recent Earthquakes in Japan」、James Mori(京都大学 防災研究所)

「大地震による周辺地震活動の静的・動的トリガリング」、前田 憲二(気象研究所 地震火山研究部)

のご講演があります。

本震の直後の余震の起こり方は、大地震の震源断層の形成に深く関係しており、高性能の地震観測の実現で、それが具体的に議論できるようになりました。余震の解析については統計数理研究所で長年研究が進められましたが、昨年の京都賞の一人は、その研究所を牽引してこられた赤池 弘次先生でした。赤池先生の研究グループとの出会いは、防災研究所の微小地震観測データの提供から始まりましたが、実にたくさんの重要な論文が、地震学会と統計数理研究所との交流から生まれてきたのであります。

第3部では、「τc(緊急地震速報)」というテーマで、

「緊急地震速報~一般への提供開始と今後の課題~」、上垣内 修(気象庁 地震火山部管理課)

「緊急地震速報-新潟県中越沖地震における地震動推定」、山田 真澄(京都大学 次世代開拓研究ユニット)

「Strong ground motions at the Kasiwazaki-Kariwa nuclear power plant during the Niigata chuestu oki earthquake」、入倉 孝次郎(愛知工業大学地域防災研究センター)

そして、これらのご講演のまとめとして、「ディスカッション及びあいさつ」というタイトルで、京都賞を受賞される金森先生のお話があります。

金森先生は、the Walter H. Bucher Medal を、サンフランシスコで開催された AGU の1996年12月17日の大会で受けられました。そのときのお話で、1972年に Caltech に着任されたとのことを紹介されました。 Hugo Benioffの元研究室の隣のバスルームを改造した新しい研究室が与えられた歴史でした。その部屋へたくさんの研究者が訪れ、次々に興味深い課題を解決していきました。金森先生は、ただひたすら自分の満足のために、ご自分の興味のままに問題を解いてきたのだと言っておられました。リアルタイム地震学の成果が、市民の安全と福祉に役立つことを見るのがうれしいとも言われました。
その成果が、京都賞につながり、日本での緊急地震速報の実現に繋がってきたのであります。

京都賞の授賞式の後、受賞者の皆さんが市民のために講演されます。毎年、この講演会は京都市で行われる行事の中でも、最大規模のもので、多くの市民が熱心に受賞者の講演を聴きに集まってきます。昨年も赤池先生の講演を楽しく聴きました。今年も楽しみにしています。

京都大学の吉田キャンパスで、川端通に面した場所で大規模な工事が始まっています。そこに稲盛財団が建物を建てて京都大学にご寄付下さることになっており、その一階には京都賞博物館を設けて、京都賞受賞者の方々の業績を紹介することになっています。やがて金森先生の業績もそこを飾ることになると思うと、たいへん感慨深いものがあります。

今日のこのシンポジウムが地震学の将来を担う次の世代の研究者たちを刺激するものとなって、また次の京都賞を受賞する方たちが出てくるきっかけになることを祈って、わたしのご挨拶といたします。

ありがとうございました。