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修士学位・修士 (専門職) 学位・法務博士 (専門職) 学位授与式 式辞 (2007年3月23日)

尾池 和夫

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本日、京都大学修士の学位を得られた2146名の皆さん、社会健康医学修士(専門職)の学位を得られた20名の皆さん、法務博士(専門職)の学位を得られた189名の皆さん、まことにおめでとうございます。ご来賓の長尾前総長、名誉教授、ご列席の副学長、研究科長、学舎長、教育部長、研究所長、教職員とともに、皆さんの学位を心からお祝い申し上げます。

本日で、京都大学が授与した修士の学位は累計5万4801名、社会健康医学修士(専門職)の学位を累計は73名、法務博士(専門職)の学位の累計は323名になりました。また、本日のこの学位授与式では、499名の女性が含まれていますが、私はもっともっと多くの女性にこの学位も得てほしいと願って、今後とも京都大学の女性支援の仕組みを整備していきたいと思っています。

法務博士(専門職)の学位は昨年が最初で、今年は2回目の授与であります。皆さんは、現代の複雑で高度な法的問題に対処することができる高い能力を持った法律家となって学位を得られた方々であります。

社会健康医学修士(専門職)の学位は、2004年度が最初で今年は3回目であります。医学、薬学、生命科学、数理科学、情報科学、社会科学、人文科学を包括した学際的な教育と研究を行う専攻であり、皆さんの先輩はすでに、病院クリニカル・リサーチ・コーディネーターとして、専任医療安全管理職として活躍し、また、国際協力機関、大学院、中央官庁など幅広い分野で活躍しておられます。

皆さんの修士論文の課題を拝見していて、とくに環境を課題とする研究が増えてきたように感じました。

情報学研究科社会情報学専攻の奥村 直子さんは、ジュゴンの声を研究し、鳴き声の音声パターンを解析しました。同じく、坂本 志磨子さんは、自動的に鳴き声を録音する装置を用いてジュゴンの行動と船舶の騒音の関係を研究し、ジュゴンに対する人の影響を調べました。菱本 陽一郎さんは飼育されているジュゴンの鳴き声と行動の関係を調べました。

いずれもバイオテレメトリーによる水圏生物資源情報の解析を研究課題としている荒井 修亮(あらい のぶあき)先生のグループの方たちです。

この研究グループでは、人と絶滅危惧種の生物の共存を目標において、特に水圏の生態系と生物資源を研究しています。生態系を破壊することなく、食料としての生物資源を持続的に利用していく可能性を求めて、この研究をしています。

その研究の方法としては、おもにバイオテレメトリーとバイオロギングと呼ぶ装置を使います。動物の個体に小型の発信器を取り付けて、水圏での行動と生息環境を測定し、さまざまの面から水圏生物の生態を調べるのです。

一般に今まで生物の行動を研究するためには、野外で目視観察を行ってその記録を資料として研究を進めてきました。特に京都大学では、例えば霊長類研究所のように、長い歴史を持つフィールドワークの伝統を築きあげてきました。

一方、直接見ることのできない海の生物に関しては、その実態はあまり知られていませんでした。よく科学の進歩が技術の進歩をもたらせると言いますが、私はその逆に、技術の進歩が基礎科学を大きく前進させる力になることを忘れてはならないと思っています。例えば、このバイオテレメトリー方式での観察は、その典型であろうと思います。電子技術の発達によって記録計の超小型化を実現し、大型の海洋動物はもちろん、鳥類や魚類などさまざまな生物への利用を可能とし、さまざまのセンサーの小型化と高感度化が進んだおかげで、研究の領域が大きく拡がったのです。

このバイオテレメトリーによる水圏生物資源情報の解析という研究テーマは、京都大学が他国に先駆けて開発し、多くの成果をあげており、未知の領域に挑戦する研究課題として若い研究者たちに大きな夢を与えている分野の一つだと、私は思っています。

京都大学は2006年度に初めて環境報告書を出版しました。この環境報告書は、学内外のさまざまの関係者(ステークホルダー)とのコミュニケーションツールですと、その報告書は説明しています。社会貢献とコミュニケーションを促進する試みとして、京都大学環境報告書ステークホルダー委員会を設置して、多くの貴重な提言をいただきました。

ステークホルダー委員会からは、本報告書や京都大学の環境取り組みについて提言をいただきました。それには、環境マネジメントシステムを構築し、PDCA (Plan Do Check Action)サイクル及び運営体制を明確にすることや、リスク、安全管理や法的要求事項の遵守については、常に確認を行い、確実にすることや、構成員への本報告書の周知に努め、「できることから始める」ことを呼びかけていくことというような重要な指摘がたくさんあります。

また、それに答えて、 京都大学環境憲章を具体化するため、京都大学にふさわしい環境安全衛生マネジメントシステムの確立が急務であると考えていますという、大嶌幸一郎環境安全保健機構長のコメントなどが掲載されています。

この報告書は、環境省の第10回環境コミュニケーション大賞の環境報告書部門で、来週、3月26日の表彰式で優秀賞を受賞することになっています。

ステークホルダー委員会に参加して下さった方の中にも今日修士の学位を得られた方がいます。

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遠藤 峻(地球環境環境マネジメント専攻)さんの修士論文の題目は「使用済み電気電子機器の越境移動政策に関する一考察」です。電気電子機器の消費と廃棄が世界で急速に拡大する中で、中古製品、再生資源としての国境を越えた移動が起こっています。それにともない、開発途上国での環境汚染の顕在化も指摘されています。この修士論文では、使用済みパソコンに関して、日本から海外への移動の形態を調査しながら、各国での責任の分担するための方策を論じています。

福井 和樹(工学研究科都市環境工学専攻)さんの修士論文の題目は「蛍光管に含有される水銀のライフサイクル挙動と循環システムに関する研究」というものです。水銀を含む蛍光管を取り上げて、日本における水銀の物質フロー解析により、有害物質を含む家庭製品の循環システム構築の方向性を検討したものです。製品由来の水銀は年間10~20トン流通しており、そのうち5トンが蛍光管由来であること、回収される水銀は0.6トンのみで、大半が廃棄物として処理、処分されていて、リサイクル量は小さいということなどが分かりました。規制策や新たな技術およびビジネスモデルの創出を検討する必要があると考えられます。

木材は典型的な環境材です。木材は、生産の過程で炭素を吸収固定し、生活環境を快適にし、他の材料にくらべて加工エネルギーが圧倒的に少なく、廃棄しても生態系に戻るという優れた特性を持っています。現在、木材は8割が輸入され、一方で国内の造林地の多くが放置されています。

地球環境学舎環境マネジメント専攻の松倉 崇(まつくらたかし)さんの修士論文は「木材資源としての大学研究林の活用に関する考察-スギ間伐材を用いた学内木造施設の建築を通して-」という題です。それには和歌山の研究林でのプロジェクトが詳しく記載され分析されています。

京都大学の和歌山研究林の間伐材で京都大学構内にセミナーハウスを建設しましたが、そのプロジェクトの端材は、割り箸に加工されました。木材を製材すると、相当量の端材が発生しますが、端材は、木の加工品、紙製品、バイオマス等への利用が行なわれています。国産割り箸生産の中心地である吉野の製法では、すべて端材で、大量の森林が伐採されることはありません。セミナーハウス建設プロジェクトにおいて、一次製材が行なわれた松田製材所では、相当量のスギ丸太の端材が発生しました。

祝箸

来週、3月26日の卒業式には、祝い箸を卒業生に贈ることにしましたが、長さ50cm、天12mm、先6mmの角箸に「京都大学」の4文字の焼印の入ったものとなりました。学部卒業生用に3,300本が制作されましたが、選木された立木は、軽トラックが走行可能な作業道沿いで、北向き斜面に立つ、1968 (昭和43)年造林の39年生スギ100本でありました。

本日、京都大学修士、社会健康医学修士(専門職)、法務博士(専門職)の学位を得られた皆さんは、明日からさらに進学して学問を深める方も、社会に出て仕事に従事される方も、その他の道を進んでいく方もおられることでしょう。どのような道に進まれるにしても、京都大学が基本理念に掲げる、地球社会の調和ある共存に貢献することに、いつも思いをいたしてほしいと思います。また、京都大学の同窓生としても、この総合大学の知の蓄積を活用しつつ活躍し、後輩の育成にも力を貸していただきたいと思います。

皆さんが健康で今後とも力強く活躍されることを祈って、私の学位授与式の式辞といたします。

本日は、まことにおめでとうございます。

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