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平成18年度京都大学新規採用職員研修の開講にあたって (2006年9月4日)

尾池 和夫

 皆さんお早うございます。

 最初に、ここにおられる25名の皆さんが、これからの人生をつぎ込んで仕事する職場として、この京都大学を選んでくださったことに、京都大学を代表してお礼を申し上げます。そして同時に、これから皆さんと一緒になって、わたしたちもこの京都大学を、真に教育と研究と医療に代表される社会貢献の、世界に誇ることのできる場として、発展させていくことを、しっかりと共通の目標として認識したいと思います。

 また、京都大学という職場は、きっと皆さんにとって働きがいのある職場であると思います。京都大学は世界に開かれていて、34か所の海外交流拠点(大学の紹介 海外の拠点 )を持っています。南極大陸でも、わたしの研究室からは女性で初めての昭和基地越冬隊員も出ましたし、初代の越冬隊長の西堀 栄三郎も京都大学学士山岳会会員でした。世界のさまざまの場所が皆さんの活躍する場所となることでしょう。

 皆さんが今日からの5日間で学習される内容は、言うなれば京都大学の職員として知っておいてほしい最低限のことであると思います。これだけは少なくとも必要だという知識でしょう。その知識は、京都大学の職員としての必要な条件ということです。

 そこで、「わたしは京都大学の職員です」と言えるために十分な条件はどのようなものだろうかということを、自分自身でこれから時間をかけて考えてほしいと思います。それがとりあえず皆さんに最初に与えられ、長期間にわたって課せられる最大の課題であろうと思います。京都大学の職員ですと言うためには、配属された部署によって、必要な知識が少しずつ異なっているでしょう。十分な知識を持つまでにはかなりの経験を積むことも必要でしょう。そのような思考と経験の元で、京都大学の職員であるための必要で十分な条件というものが、いずれ明確に自分の言葉で説明できるようになると思います。

 わたし自身は、京都大学の総長に就任することが決まってから、この仕事をするために必要な条件と十分な条件は何だろうかと考えました。すでに長い年月を大学の学長として、あるいは私立大学の場合は理事長として、または学長と理事長、あるいは総長を兼務して、多くの方たちがさまざまの形でその経験を公表しています。あるいは逢って直接に話を聞きます。それらの貴重な経験に触れるときに、わたしは、学長の職にあるために必要な条件と十分な条件は何だろうかという観点で、書かれたものを読み、話を聞くことにしています。皆さんもこれからぜひ、京都大学の職員として、必要な条件と、十分な条件を考えながら、ご自分の仕事のデザインをしてみていただきたいと思います。


 今年、2006年6月19日に、永年勤続表彰を行いました。勤続30年の55名の方々、および勤続20年の36名の方々が表彰を受けられました。その方々の永年勤続を誇りとする輝かしい笑顔を見ていると、それはまことにおめでたいことであると思いました。その表彰式で、わたしは次のようなことを話しました。

 まず、京都大学を運営する方針の中に、どのようなことを、わたしが置いているかということです。そこで、効率的な組織と運営システムを整え、情報技術を高度に利用し、教員の活発な活動を保つということ、職員の専門性を高め意識改革を促すこと、正確な情報が迅速に効果的に伝わるしくみを作って、意欲のある若い職員の挑戦を支援するということを含めています、と話しました。

 そして次に、常に京都大学のミッションを念頭に置いて毎日の仕事をしていただきたいと願っています、と申しあげました。

 その日、この表彰式の直前、若い職員の方々からの提案を聞いて役員会のメンバーが学習をするという企画がありました。若い職員の方たちが、20年、30年後の京都大学は自分たちが担っているというつもりで、今、熱心に勉強会を開いており、その成果を役員などに聞いてほしいという申し入れを頂き、私はたいへん感銘を受けました。そして、永年勤続表彰を受けた方々にも、仕事を始めた頃、きっとそのような意気込みでおられたことを思い出されると思います、と申しあげました。

 皆さんも、これから20年、30年後に向かって、どうか、ご自身の健康を大切にしながら、専門性を高める努力を続けていっていただきたいと思います。そのご努力に応えることのできる職場にしていくことが、わたしたち役員会の勤めであり、皆さんの努力に応える運営をしていきたいと思っています。

 仕事をするためには、正確で十分な情報を持つことが必要です。現在はネットワークの世界にわたしたちはいて、ウェブサイトを検索するとたくさんの記事が出てきます。情報というのは、確かにそのようなサイトの中にもありますが、どれが真に重要な情報であるかどうかは、自分で判断しなければなりません。そこでは、わかったということと、わかったような気がするということの違いをはっきり認識していることが重要です。さらに、情報というものは、それを蓄積し伝え、検索する仕組みももちろん重要ですが、情報を生産する人も重要であるということを忘れてはなりません。そして重要なことは、京都大学はこの情報を生産する役割を持っている大学であるということです。京都大学には、109年の歴史の中で蓄積された豊かな知のストックと、それを増殖させる知の生産者たちが日夜研究を進めているということが重要です。

 例えば、わたしの氏名でサイトを検索してみてください。わたしの氏名はそれほど同姓同名が存在しないので、そこに見つかるサイトの多くはわたしが発信した情報を掲載しているサイトです。また、例えば「変動帯の文化」というキーワードで検索してみると、その言葉はまだわたしのサイトにしか出てこないということがわかります。わたしの仕事では、この「変動帯の文化」の概念を広めることに一つのポイントを置くつもりです。

 いつも、わたしは京都大学で仕事をする方たちに申し上げることがあります。まず大学のミッションを明確に把握していてほしいということです。それさえ忘れなければ、たとえ仕事に行き詰まって、進むべき道が見えなくなっても、迷うことはありません。京都大学のミッションをそこで思い出してもらえば、かならず解決すると思います。また、職員の皆さんは、学生の顔と名前をできるだけ覚えて仕事してほしいと思います。職員は教員や大学の執行部と学生たちとの間の重要なインターフェイスであると、わたしはいつも申します。

 具体的なことですが、ホームページのわたしのページには、メールアドレスがあります。それは学内外のどなたでも、わたしにメールを送ることができるように、総長に就任したときから設定してあります。教職員と学生が3万人以上いる大学で、なかなか直接お目にかかって話することができないと思いますが、メッセージがありましたら、そのメールで伝えてください。どんなことでも、皆さんの若い目で気づいたことをもとに、ぜひご提案を頂きたいと思います。一つひとつに返事はできないとしても、わたしはかならず自分で読んで、大学の運営に活かしています。また、京都大学のメールマガジンも発行し始めました。それもぜひ読んでほしいと思います。

 皆さんがお元気で、学内外で活躍してくださることを祈って、研修会の開会の挨拶といたします。

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