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国立大学附置研究所・センター長会議 挨拶 (2006年5月25日)

尾池 和夫

 琉球から北海道までの全国、27の国立大学、60の附置研究所と22の研究センターで構成された「国立大学附置研究所・センター長会議」の開催にあたり、開催大学を代表して、一言ご挨拶申し上げます。

 この会議に関連する組織の所属の教員は、3,300名と聞きます。また共同利用機関法人もご参加とうかがっております。その先生方にも、ご挨拶申し上げます。

 この皆様の会議の活動には、わが国の学術研究政策に対する問題提起や提言、国立大学の附置研究所・センターが行っている学術研究の意義やその成果についての広報などがあると伺っており、今日はそのような活動に関連して、少しだけ話したいと思います。

 今年の3月16日に、「京都からの提言-21世紀の日本を考える(第1回)」という、京都大学附置研究所・センター主催のシンポジウムが品川で開催されました。1,300人の申し込みがあり、たくさんお断りしたそうですが、当日は、朝から夕方まで席を立つ人がいないほど熱心に話を聞いていただきました。この今日の会議の世話役をなさっておられる金 文京さんも、東アジアの共同体は可能かという興味深い講演をしてくださいました。大学の役割がここにもあるのだと、私は実感して熱心な聴衆の様子を拝見しました。

 2006年5月に、文部科学省科学技術政策研究所の科学技術動向研究センターから、「忘れられた科学-数学」という冊子が発表されました。それによると、主要国と比較して日本の数学研究費の状況は極めて厳しいと推測されると書かれています。今の予算規模は、数学研究のレベルの現状維持またはレベル低下を緩和する程度にしか寄与していない可能性があるとされています。また、海外のトップクラスの数学研究者からは、日本の学者の後継者が不足していると警鐘が鳴らされているそうです。

 昨年、2005年9月26日には、学術会議叢書10として、「今、なぜ、若者の理科離れか、科学者と社会との対話に向けて」が出版されました。その中では、「問題は子どもの理科離れだけでなく、成人の理科離れがさらに深刻であることが分かってきた」とあります。また、「英国などでは、public understanding of science(社会の科学理解)から、public engagement in science(社会の科学への関与)へと移っている」とあります。

 英国では、科学理解増進活動の具体的な事例として、王立協会の「社会における科学」プログラムがあります。とくに国会議員と大学の若手研究者を中心とする「国会議員・科学者ペア・スキーム」は大変に興味深いものです。この目的は、科学者が持つ科学的知識を、国会議員に伝える方法と組織の構成を科学者に認識してもらうこと、研究に従事している科学者に、国会議員がどのようなプレッシャーのもとに活動しているかを理解してもらうこと、国会議員に、第一線で研究に従事している科学者のネットワークとのダイレクトリンクを築く機会を提供すること、国会議員に、科学的な理解および話題になっている研究に慣れ親しんでもらい、最終的にはこの知識をより良い議論や政策決定に役立たせることなどに置かれています。2005年には英国の労働党、保守党、自由民主党の国会議員 25名、および大学や研究機関の第一線で活躍中の30歳代を中心とする若手研究者25名の合計50名(25組)が参加したそうです。

 このような先進的な試みを学びながら、市民の学術に対する正しい理解を広める努力を続けるのは、大学全体の本来の役割ですが、大学の附置研究所や研究センターの教員の方々にも、とくに今日お集まりの所長の先生方にも、積極的な役割を果たしていただきたいと思っています。

 乾杯のために「ホワイトナイル」という名前のビールを用意しました。この4月に京都大学が早稲田大学と交流協定を結んだ記念に発売したもので、早稲田大学のエジプト考古学と京都大学の栽培植物起源学の結合によって、古代エジプトのビールが復元されました。京都の水を使って、京都の老舗、黄桜酒造株式会社が製造したものです。まさに大学間交流、文理融合、産学連携の結晶からなるビールで、これもやはり大学を市民に見てもらうための広報の仕掛けでもあります。

 国立大学の法人化から2年が過ぎ、はや最終評価や第2期中期目標のあり方が議論され始めており、お話ししたいさまざまのことがありますが、とくに市民への広報活動のことをお話しして、私の本日のご挨拶といたします。

 ありがとうございました。

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