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京大職場フォーラム2005 「ちょっと立ち止まって-京大の未来を考える」 挨拶 (2005年11月19日)

尾池 和夫

 京都大学の職場で働く教職員の皆さまが集まる「京大職場フォーラム2005」の開催にあたり、ひとことご挨拶させていただきます。お招きいただいて、たいへん光栄に存じます。

 「ちょっと立ち止まって、京大の未来を考える」という副題がついておりますが、12月の予算原案の決定に向かって、事態はどんどん厳しい方向へ向かっており、今、財務省と文部科学省の間では激しいやりとりが毎日続けられていて、ちょっと立ち止まると、たちまち科学技術関係の予算が減り、教育への予算が減り、国立大学への交付金が減っていくというような事態になっています。とりわけ3%のシーリングが科学技術や教育にまで影響を及ぼす事態が懸念されます。

 そのような状況の中での、11月に入ってからの私の日程をたどって、参考までに報告します。

 2日、東京で、教員の任期制の導入状況を議論しました。大規模な総合大学で、大きな割合で任期制の教員が増えていることがわかりました。

 7日には長崎で、国立大学協会の総会があり、その機会に文部科学省の方たちとの懇談会がありました。国立大学の入学金の改定が議論されているという説明がありました。また、施設整備の交付金がほとんどない状況に対して、私立大学の施設整備費が寄附でまかなわれている状況を考慮する説明がありました。また、昨年の授業料標準額の改定に伴って交付金は減っていないはずだという説明がありました。


木谷 雅人理事

 5日、京都大学上海センターシンポジウム「日本を追い抜くか-急成長する中国自動車産業-」の開催に挨拶をさせていただき、そこで、全国大学高専教職員組合(全大教)の中央執行委員長である大西 広さんにお会いする機会がありました。このシンポジウムの挨拶では、中国での交通事故、都市計画、環境などの問題も、自動車産業の急速な発展とともに大きな課題となるであろうということ、中国では車だけではなく、あらゆる分野での急激な成長が見られ、大学も同じだということなどを話しました。

 10日、京都賞の授賞式の日ですが、三省堂が「現代俳句界の総力を結集して誕生した」とする「現代俳句大辞典」を出版すると聞いて生協に予約してあったのですが、現物が手元に届きました。さっそく中味を読んで書評を書きました。その中に、私の好きな句の鑑賞を入れました。次の句です。

 かの鷹に風と名づけて飼ひ殺す  正木ゆう子

 国立大学の法人化を進める段階では、文化と伝統を守り育てる大学を法人化して効率化し、規制をはずして、風を切って大空を飛ぶ鷹のように、のびのびと世界に羽ばたける大学にする、というような印象を与える説明が行われていました。蓋を開けてみると、諸規制はそのまま、基盤的経費の交付金など、あの手この手でどんどん減らされ、蓄積した文化を守る力まで失いかねない方向へ施策が進められています。

 長い歴史の中で育てられた文化を破壊してしまうと世界の信用を失ってしまいます。そうならないように、京都大学は国公私立大学と連携しながら、理想とする教育と研究と医療の実現に、自力で頑張らないといけないと思います。そんな気力を与えてくれるのが、この句であります、というようなことを書評に書きました。

 11月12日には、広島で、楠の写真を撮りました。

 14日、山猫共和国駐日大使の、せ川みつを(瀬川満夫)さんから、「九条せんべい」をいただきました。京都大学の教員が仙台に行ったとき、これを京都大学の総長に渡してくださいと、預かってきてくれました。そのせんべいには、日本国憲法第九条が焼き付けてあります。『「平和の味」をかみしめて、ご賞味いただけたら私たちの喜びです』とメッセージが添えてありました。長崎、広島を訪問した直後に、また、原子爆弾を投下したアメリカ合衆国と日本の会談が京都で行われる直前にいただいたので、感慨もひとしおでありました。

 日本国憲法の第9条を読みながら、そのせんべいをいただきました。第12条で、自由を守る不断の努力が必要なことを、あらためて認識し、第23条の「学問の自由は、これを保障する」というところまで、せんべいをかじりながら読みました。

左から尾池総長、木谷 雅人理事、教職員共済大学支部 常任幹事 三宅 則義氏

 17日、鳥取へ行く朝、「改革を止めるな」のポスターが6枚並べて貼ってあるのを見ました。そこに小学生と思われる子どもたちが立っていて、ポスターの一枚は、止めるなの「な」の字が子どもに隠れて見えなくなっていました。「改革を止める」と読めました。もう一枚は、「る」の字の下の○の部分から下が隠れていて、「改革を止めろ」と読めました。それを見て、大量得票を背景に進められている政策でも、懸命な市民の見識と、賢い市民の行動によっては、政策を大きく変更させることができる可能性を示唆しているのかもしれないと思いました。ポスターのある場所も、ちょうど九条でした。

 とりとめもない近況報告になってしまいましたが、今日の皆さまの職場フォーラムでの討論が、京都大学の未来に向かって、真に実り豊かな成果をあげるであろうことを確信します。確信しつつ、私の周辺のできごとをお話しして、挨拶とさせていただきます。

 ありがとうございました。

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