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地球電磁気・地球惑星圏学会 挨拶 (2005年9月30日)

尾池 和夫

 地球電磁気・地球惑星圏学会の懇親会にお招きいただき、まことにありがとうございます。京都大学の創立は1897年ですが、この時計台は1925年にできました。今は免震装置を地下に設置して、京都大学百周年時計台記念館として使っていただいております。今日はご挨拶の中でこの100年以上の歴史を語ろうと思いますので、少し長くなるかもしれません。

 京都大学の地球科学の芽を具体的に育てたのは、京都帝国大学に地震学が必要であるとして導入した第3代総長の菊池大麓でありました。1909年(明治42)年に、志田順(とし)が着任しました。
 京都へ着任した志田は、1902(明治35)年に地磁気国際同時観測のために京都市の上賀茂に設置された観測所を修理して、ドイツ製の水平振り子の傾斜計とウィーヘルト式地震計を東京帝国大学から借りて設置しました。これが今の上賀茂地学観測所であります。
 志田は、1926年には「深発地震存在の提唱」と題して別府で講演しました。その意味で、別府は地球深部研究の発祥地だと、私は思っております。
 志田は、また関西の財界や行政の有力者を説いて寄附を集め、地球物理学講座を新設し、さらに別府に地球物理研究所を設立し、さらに1930(昭和5)年に、阿武山地震観測所を設立しました。

 みなさんの学会は、以前は日本地球電磁気学会と呼ばれており、京都大学の長谷川 万吉先生によって設立され、古地磁気学から地球超高層大気の電磁気学的現象を扱う学会としてご活躍を続けてこられました。長谷川先生は、1947年から1960年まで会長を務められました。この後の方が、私が京都大学に入学した頃でもあります。
 さて、この長谷川 万吉先生ですが、京大宝生会の指導者でもありました。宝生流の能の世界では準玄人の域に達した方で、学生たちを指導しておられました。このような脳や体のいろいろの部分を働かせる生き方を学ばないといけないと思います。

 1956年(昭和31年)第一次南極予備観測隊出発、1957年、国際地球観測年(IGY) 、京都大学に地球電磁気学講座開設、1959年、第三次南極観測隊がタローとジローの生存を発見、というように続きました。私たちは、1961年の11月祭で南極展を開催し、たいへんな人気でした。

 1960年のチリの巨大地震で、地球の自由振動が観測されました。1975年になって私は地震学者として、ペルーのニャーニャ観測点でこの地球振動を記録したベニオフの歪み地震計を見ることができました。サソリや毒蜘蛛がいる場所でした。その続きでペルーのウアンカイヨにある石塚 睦(宇宙now 1998年5月号)さんの地磁気観測所を訪れました。その前年には中国で上海のシーサン(シー山)や北京の郊外バイジャタン(白家タン(田へんに童))にある地磁気観測所を訪れ、地磁気の観測が長い歴史を持っていることを知って感銘を受けました。
 また、チリ地震で地球振動が発見されたとき、磁場にはどのような現象が起こるのだろうかという疑問が私の中でずっと残っておりました。2004年12月 26日のアンダマンニコバル諸島の巨大地震で、家森さんたちが地球磁場が波打ったという発表をされて、やはり、と納得いたしました。後に残る疑問は、このような巨大地震の動きで地球内部でどのような電磁気現象が起こるのか、地球振動を減衰させる電磁ダンピングの作用があるのではないだろうかという疑問です。どなたかぜひ教えていただければと思います。

 地球の中は大気圏や惑星間空間とちがって、直接見ることがたいへん困難です。2005年9月10日「ちきゅう」の中を見せていただくため、大黒埠頭まで行ってきました。すばらしい深海掘削船ができて、これで人類は初めて、マントルに達する地球の中を見る眼を持ったことになると実感しました。掘り上げたコアをそのままで、直ちに三次元のCTスキャンで中味の写真を撮り、それからスライスして分析します。掘り出したボーリングコアは「なまもの」で、その場ですぐに磁気を測るという説明でした。これが長い間の研究者の念願だったのです。NSFのベメット長官も「ちきゅう」を見学して来られ、次の週にこの時計台で食事しながら大いに話がはずんだのであります。

 これからは、地球に限らず、衛星を用いた惑星観測にも、大がかりな地上多点磁場観測、あるいはレーダーによる電離層観測、また、スーパーコンピュータの発展とともに、地球磁場ダイナモ、太陽風と磁気圏の相互作用の数値シミュレーションなど、さまざまなプロジェクトが進み、新しい発展を遂げて行かれるものと期待しております。
 大型の基礎研究には莫大な資金が必要です。「ちきゅう」の運転には毎日2500万円の費用が必要と聞いています。しかし、地球の中を知ることによって、将来世界の人びとが受ける恩恵は、はかりしれないものとなります。このような基礎研究に対する市民の皆さんのご支援をお願いして、そして、地球の中へも外へも、私たちの目をしっかり向けながら、地球電磁気・地球惑星圏学会のますますのご活躍を祈って、私の挨拶といたします。

 ありがとうございました。

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