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新規採用職員研修開講式 挨拶 (2005年4月4日)

尾池 和夫

 京都大学に、奈良工業高等専門学校に、舞鶴工業高等専門学校に、それぞれ新しく採用された36名の方々に、研修の開講式にあたって、ご挨拶申し上げます。

 ちょうど新しい年度の始まりを祝うように、ソメイヨシノが咲き始めました。哲学の道と呼ばれる疏水に沿って咲く桜並木は、橋本関雪とその妻ヨネが京都市に寄贈した桜360本に、京都市が180本を足して合計540本の桜並木にしたと言われます。今でもその半数ほどが残っていて、関雪桜(かんせつざくら)と呼ばれます。

 京都大学のキャンパスにも、たくさんの種類の桜がありますが、とくに北部構内の植物園の桜はきれいです。京都大学には桜の他にもよく知られた樹木があります。京都市は、「区民の誇りの木」というのを選んでいますが、その左京区編には、熊野寮のイチョウ(高さ14.0m、幹周1.45m)とクスノキ(高さ15.0m、幹周2.00m)、時計台前のクスノキ、グラウンドのクスノキとメタセコイアが指定されています。また、北部グラウンドの西北の角にはオリンピック・オークがあります。この今週の研修の機会に、桜や名木を見ながら、京都大学の近くを歩いてみるのもいいのではないかと思います。

 みなさんは日本の高等教育を担う職員として、自ら志願して得た職場での活躍を夢に描き、希望に燃えていることでしょう。皆さんが参加する職場には、事務系の職場、図書系の職場、技術の職場、研究の現場である教室や施設の職場と、大学や工業高等専門学校の実に多様な教育と研究の場に即して、さまざまな仕事場があります。

 高等教育の特徴は、もちろんその高度の専門性にあります。そして多様な学生を育てていく役割があります。みなさんの職場は、そのような学生がいて、教員がいて、それらの活動を支援する職員たちがいる、そういう職場であります。どの部屋を見ても、そこには世界の第一線を走る先端研究が行われている所があったり、それを継続的に支えるために24時間稼働している現場があったり、実に多様な仕事場を見ることができるでしょう。まずは、皆さんが仕事をする職場の身の回りから、多様な仕事の内容を、少しでも理解することを心がけてほしいと思います。そして皆さんご自身も、これだけは他の人に負けないという、得意技をぜひ身につけていただきたいと思います。

 大学や工業高等専門学校で最も大切なのは、もちろん学生です。そのことをまず、しっかりと覚えてください。今日の皆さんに負けない意欲を持って入学してきた新入生たちが今キャンパスにあふれていて、勉学の意欲に燃えています。その学生たちの意欲をいつまでも持たせるのは、教員と職員の仕事の仕方にかかっています。学生は講義を聴きますが、なかなか教員たちと直接話す機会が持てません。しかし、窓口の職員とは直接話をする機会がたくさんあります。そのときの対応の印象が、その学生の、その教育機関に対する印象になって一生残るのだということも覚えておいてほしいと思います。そして学生たちの顔と名前をたくさん知っている職員になってほしいと思います。

 仕事をするときに、私自身がモットーとしている三原則を皆さんにも参考にしていただければと思います。それは、まずは、自分の力を養うための「三現力」です。それは「発現力、表現力、体現力」です。発現とは、自然治癒力の発現、免疫力の発現というように使う言葉で、持っている力を発揮する力です。潜在力は活用しなければもったいないのです。発想を生み出す力でもあります。また、表現力とは、広辞苑によれば、「心的状態・過程または性格・志向・意味など総じて精神的・主体的なものを、外面的・感性的形象として表すこと」です。思いついたことを人に伝えなければなりません。そして、体現力です。産学連携の体現者、ドラマで内面を体現する、というように使う言葉です。理想や思想を具体的な形に実現することです。実現力と言ってもいいでしょう。これらの「三現力」をそろえて、自らの能力を最大限に発揮してほしいと思います。

 つぎに、仕事を進めるための「三現則」です。それは「現象、現場、現実」を大切にするということです。仕事をするためにはものごとを現象としてしっかり見ることが大切です。それも現場に行って見ることが大事です。そして現実を見ることも大事です。そのとき最も重要なことは、見た内容をしっかり記録しておくということです。そのようにして得た情報を基にして仕事を進めていくと、それが他からは得られない自分だけの得がたい情報源となります。

 もし、行き詰まったときには、解決への三原則があります。それは「原点、原物、原理」であります。原点は場合によって原典と置き換えます。物事の原点に帰って考え、あるいは書物の場合は原典を読み直すということです。そして原物をよく見て、原理をもとに判断するということです。そうすることによって解決への方向が見えてくると思います。

 このような私の使っている三原則あるいは三現則を、参考にして、職場の現場に出て、何がそこに起こっているかという現象をよく観察し、現実に触れてみてください。そして、具体的なテーマを設定して、例えば、百万遍の角にある櫓や小屋は、いったい何のために誰が作ったのか、というような疑問から、京都大学の石垣にはどのような歴史があるか、不法占拠とは、学生とは、教職員の役割とは、大学や学部の自治能力とは、というように、次つぎと疑問を展開してみましょう。そして、問題は何か、どのようにそれを解決するかを考えてみてください。そして考えがまとまれば、それを提案していただきたいと思います。

 職場には、皆さんの先輩がたくさんいます。その先輩たちをつかまえて質問し、提案し、議論してください。京都大学は、1年前までは国家公務員の職場でした。そこで長い間に身につけた公務員型の仕事場の習慣は、さまざまの点での改革を必要としています。

 日本は、世界的に見ても強力な官僚社会であり、その歴史の強い影響を受けながら、急激な法人化をした職場に、新しい方針で新しく採用された皆さんですが、その皆さんには、すでに同じように新しい方針で採用された直近の先輩たちがいます。若い職員たちは、自分たちで学習会などを持ちながら研鑽につとめ、たいへんな意欲を持って活躍しています。職場には、長い年月で培われた知恵も重要であり、若い意気込みも重要です。それらが融合したとき、皆さんの職場は大きな力を発揮して、学生を育て、研究を進展させることになるのです。

 健康に十分気をつけながら、ご活躍くださるよう、心から願っております。

 ありがとうございました。

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