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利根川 進様 京都大学名誉博士授与式典 式辞 (2004年4月12日)

尾池 和夫

 今日、渡辺 格先生はじめ同級生のみなさまにご列席いただいき、副学長、各研究科長、部局長、教職員とともに、利根川 進博士に京都大学名誉博士の称号を授与しましたことは、私にとって大変名誉なことです。
 利根川 進博士が京都大学理学部を卒業したとき、その卒業式で式辞を述べたのは、平澤興第16代総長でした。理学部の卒業生153名の中に利根川 進さんがおられました。その式辞の中で、平澤先生は、「あくまでも工夫をこらして精進し、その道ではいかなる人にも負けないだけの自信を持てるよう努力する(中略)、ただ人に負けないのみならず、独創的精神をもって絶えず新しい境地、新しい成果を生み出さねばなりません」と言われております。利根川先生の脳に、もしかしたら、その記憶が記録されていて想起されているのかもしれません。

 昔この時計台の地下にレストランがあり、そこでステーキ定食を出していたという話を私がして、生協が百周年時計台記念館の竣工記念に、そのステーキ定食を復元しようと計画しました。私はクラスメートにメールを送って、そのステーキ定食の記憶をたどってもらいました。その答えの中で、くわしい記憶の記述を送って下さったのが、竹内さんと、利根川さんでした。竹内さんのは安かったしくみを、利根川さんのはレストランでの珍妙な場面を伝える内容でした。おかげさまで、復元したステーキランチは大変な好評でした。
 利根川さんのそのときのメールには、"Memory is a great thing"とありました。

 本日の午後、利根川博士には、ウイルス研究所と生命科学研究科との主催する学術講演会で、「分子生物学から免疫学、そして脳科学へ」という講義をして下さることになっております。先ほど読み上げました趣意書には、この「脳科学」とか「記憶」という、利根川 進博士の現在を直接表す言葉が出てきておりませんが、私たちが最も関心を持つ課題である脳科学で、さらに第2のノーベル賞を獲得していただきたいと思い、またお弟子さんの中からノーベル賞の受賞者が出ることも願って、私はこの名誉博士の称号を授与させていただきました。

 この京都大学名誉博士の称号は、1989年から2002年まで、各分野ごとに合計8名の方々に授与されました。その後制度を変えて、推薦は部局か総長の推薦によるのですが、称号は京都大学名誉博士ということになりました。ただいまその第2号の名誉博士号を差し上げましたが、総長推薦による最初の京都大学名誉博士であります。推薦者は長尾 真前総長であります。その授与式を、利根川博士の京都大学理学部時代の級友と渡辺 格先生のご出席のもとで挙行することができて、うれしく思うと同時に、さまざまなことを思い出します。
 この記念館で授与式を行いましたが、利根川博士がときどき話しておられるように、理学部に入学して次の年、1959年の第1次安保闘争が始まって、この時計台の周辺でも大変な闘争が毎日がくり返されておりました。その頃のことが思い起こされるのであります。
 まさに記憶は偉大であります。その記憶もまじえながら、この授与式の場で、しばらくご列席の方々と、ご懇談をいただければと思います。

 京都大学名誉博士の称号、まことにおめでとうございます。ありがとうございました。

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