博士課程教育リーディングプログラム「デザイン学大学院連携プログラム」が始動します-京都大学デザインスクールを2013年4月に開設(2013年1月15日)

博士課程教育リーディングプログラム「デザイン学大学院連携プログラム」が始動します-京都大学デザインスクールを2013年4月に開設(2013年1月15日)

 京都大学では、5年一貫の博士課程教育リーディングプログラム「デザイン学大学院連携プログラム」を2013年4月から開始します。本プログラムでは、異なる分野の専門家と協働して「社会のシステムやアーキテクチャ」をデザインできる博士人材を育成します。多角的な視点から物事の本質を深く研究する京都大学の伝統を活かして、異なる立場・領域に属する多くの関係主体のコラボレーションによる人材育成を目指す試みです。具体的には、産学官連携、国際連携、大学間連携による教育の推進を目的として、本学の吉田、桂、宇治キャンパスと京都市立芸術大学のハブとなるデザインイノベーション拠点を京都リサーチパークに設立し、リーディング大学院を可視化します。本拠点を産学官により運営し、リーディングプロジェクトや、問題発見型/解決型学習(FBL/PBL)を常時社会に開放します。このように、リーディングプログラムを対外的にオープンにした活動を「京都大学デザインスクール」と通称し、社会と共に教育研究を行う姿勢を広く世界に伝えます。

背景

 国際社会は今、温暖化、災害、エネルギー、食糧、人口など複合的な問題の解決を求めています。そこで本プログラムでは、異なる分野の専門家と協働して「社会のシステムやアーキテクチャ」をデザインできる博士人材を育成します。またそのために、情報学や工学の基礎研究を結集し、複雑化する問題を解決するための、新たなデザイン方法論を構築します。これによって、Cyber(情報学など)とPhysical(工学など)の専門家が、経営学、心理学、芸術系の専門家と協働して、問題の発見と解決ができるよう教育を行います。要するに専門家の共通言語として「デザイン学」を教育し、社会を変革する専門家を育成します。こうした人材を、ジェネラリストを意味する「T字型人材(T Shaped People)」と対比させ、専門領域を超えて協働できる突出した専門家という意味を込めて「十字型人材(+Shaped People)」と呼び、本プログラムにより養成すべき人材像とします。

 我が国では、過去10年ほどの間に、専門領域に特化したデザイン専攻(機械システムデザイン専攻、環境デザイン専攻など)が多数生まれてきました。これに対し本プログラムは、専門領域に特化しない一般性のあるデザイン学博士教育を行うものです。同じ志を持つ世界の大学(スタンフォード大学、ハーバード大学、ミシガン大学、アールト大学、ロンドン大学、清華大学など)や国内の大学と連携し、デザイン学の確立に向けて不断の検討を進めていきます。

特徴

1. デザイン学の確立と産学官連携による人材育成を狙った3層構成

 新しい領域であるデザイン学を確立するには、フォーカスした教育陣と同時に、大きな広がりのある活動を生み出していく必要があります。そのため、本プログラムの実施組織を3層で構成します(図1参照)。

 まず、デザイン学の5年一貫教育を担当する「京都大学デザイン学大学院連携プログラム」(情報学、建築学、機械工学、心理学、経営学)を教育研究指導体制の中核とします。京都大学では、情報学研究科、工学研究科、教育学研究科、経営管理教育部から20名のプログラム担当者が、参画11専攻を代表して参加します。さらに、芸術系領域を担当する京都市立芸術大学大学院美術研究科の参画によって、教育研究指導体制が強化されています。次に、デザインの対象となる領域との協業を行う「京都大学デザインスクール」(防災学、農学、看護学、医学など多様な専門領域を含む)を、広がりのある本プログラムの活動全体の通称とします。さらに、デザインの主体からなる「京都大学デザインイノベーションコンソーシアム」(国内外の企業、非営利団体、自治体など)を発足させ、本プログラムの支援体制を構築します。

2. 社会の実問題に取り組むデザイン学カリキュラム

 優秀な学生をリーダーへと導くため、本プログラムでは、俯瞰力を鍛える「コースワーク」と、独創性を育てる「学位研究」を備えています(図2参照)。

 俯瞰力を鍛えるコースワークは、博士前期課程におけるデザイン学共通科目とデザイン学領域科目(主領域)、博士後期課程におけるデザイン学領域科目(副領域)と海外やフィールドにおけるインターンシップなどから構成されます。デザイン学共通科目の講義は、(1)デザインとは何かを議論する「デザイン方法論」、(2)人工物、情報、組織・コミュニティのデザインなど、広領域のデザイン論、(3)エスノグラフィ、データ分析、モデリング、シミュレーションなど、現場の問題理解のための「フィールド分析法」から構成されます。一方、デザイン学領域科目は、情報学、機械工学、建築学、経営学、心理学の5領域の科目からなり、副領域としても履修可能とします。博士後期課程では、海外インターンシップやフィールドインターンシップによって、国際的かつ実践的研究の感覚を磨き俯瞰力を高めます。特にフィールドインターンシップは、「現場の教育力」を活用する新たな試みで、専門領域の異なる学生がチームを構成し、数か月フィールドに滞在して活動するものです。

 独創性を育てる学位研究は、博士前期課程における問題発見型/解決型学習(FBL/PBL)、博士後期課程におけるオープンイノベーション実習、博士研究を行うリーディングプロジェクトという3段階の実践教育の中で行います。まず博士前期課程で、実社会に内在する課題を抽出する問題発見型学習(FBL: Field-Based Learning)と、実社会の問題に対して解を見出す問題解決型学習(PBL: Problem-Based Learning)を実施します。演習テーマの約半数は、教員が取り組む実問題を実習化したもので、「再生可能エネルギーの普及」や「都市エリアのデザイン」など本格的なものです。他の半数は、企業、自治体などから持ち込まれる実問題を演習化したもので、学生はテーマ提供者の協力を得て、「専門家の卵」として課題に取り組みます。その後、学生は、多様な専門家と共にオープンイノベーション実習を体験します。ここでの学生の役割は、専門家の卵ではなく、専門家チームをマネジメントをする「ファシリテータ」です。さらに博士研究を、産学官のリーディングプロジェクトに参加し、複数のアドバイザの指導(複数アドバイザ制度)の下で行います。

3. 産学官連携のためのデザインイノベーション拠点

 リーディングプログラムの実習やプロジェクトを行う教育研究環境として、分散した京都大学のキャンパス(吉田・桂・宇治)と京都市立芸術大学のハブとして、地理的にもその中心に位置する京都リサーチパーク内にデザインイノベーション拠点を設置し、本プログラムの推進拠点とします(図3参照)。さらに、同拠点を国際的に開放し、交流先大学の学生・教員の滞在する場とすることにより、国際的に切磋琢磨し刺激し合うことのできる環境とします。また、京都大学の吉田、桂、宇治キャンパスや京都市立芸術大学と拠点を結ぶキャンパス協働システムを整備し、遠隔地からの受講や、地理的に分散した共同作業の実施を可能とします。

 特に、学生がチームを形成して取り組む問題発見型学習(FBL)や問題解決型学習(PBL)は、本プログラム学生だけでなく社会人や芸術系学生にも開放します。また、博士研究を、社会の実問題に挑戦するリーディングプロジェクト(共同研究講座、産学(官公民)プロジェクト、萌芽的プロジェクト)は拠点を中心に実施します。さらに本拠点にはフューチャーセンターを置き、産の抱える問題と、学の教育研究の橋渡しを行います。具体的には、フューチャーセンター経由で持ち込まれた実問題ごとに、オープンイノベーションのための専門家チームを構成し、訓練した学生をファシリテータとして参加させます。

 また、深い専門性を備えつつ横連携できる人材を育成し社会の原動力とするためには、新たな産学官連携モデルを生み出すことが必要です。本拠点を、大学と企業の双方に接する産学官連携の中核とし、日本の風土や文化に根差したモデルの構築を目指していきます。


(1) デザイン学大学院連携プログラムの位置づけ

 (2) デザイン学大学院連携プログラムの連携体制

図1 デザイン学大学院連携プログラムの組織構成


本プログラムは、以下の特徴を備える。

  • 情報学、機械工学、建築学、経営学、心理学を結集したデザイン学共通科目と、デザイン学領域科目(主領域・副領域)から成る網羅的な科目設計
  • 国際連携ネットワークに支えられた海外インターンシップ(個人単位)による豊かな学生交流
  • 「現場の教育力」を活用するフィールドインターンシップ(グループ単位)の新たな導入
  • 専門領域を超えた学生チームによる問題発見型学習(FBL)と問題解決型学習(PBL)
  • フューチャーセンター(オープンイノベーション機能)を有するデザインイノベーション拠点をハブとした産学(官公民)連携
  • 社会の実問題を扱うリーディングプロジェクトの中での、複数アドバイザ制度に基づく博士研究

図2 デザイン学大学院連携プログラムのカリキュラム


拠点が立地する京都リサーチパーク9号館

サマーデザインスクールの様子(2012年9月)

図3 デザインイノベーション拠点