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青年期まで続くチンパンジーの母親の重要性 -母親を亡くしたオスは長期的に見ても早死にする傾向があることを解明-

2013年11月1日


中村准教授

 中村美知夫 野生動物研究センター准教授、伊藤詞子 同研究員、座馬耕一郎 同研究員、早木仁成 神戸学院大学教授、保坂和彦 鎌倉女子大学准教授らの研究グループは、タンザニア・マハレ山塊に生息する野生チンパンジーの長期データから、離乳後であっても、母親を亡くすと生存が困難になることを明らかにしました。

 本成果は、米国科学誌「American Journal of Physical Anthropology(「アメリカ形質人類学」誌)」の電子版(米国時間2013年11月1日付)にて発表されました。


チンパンジーの子どもが母親に依存する期間は長い。これまでは離乳と同時に母親への依存は終了すると考えられていた。

背景

 哺乳類は、生まれてからしばらくの間母乳に栄養を依存しています。したがって、離乳前に母親が死んでしまうと生き延びることができません。逆に、離乳さえしてしまえば母親がいなくなっても生きていくことができるのが一般的です。この点でヒトは少し変わっています。親からのサポートは母乳を与えるだけでは終わらないのです。離乳してからも長い間、ヒトの子供は親へ依存しなければ生きていくことができません。離乳食から始まり、日々の食事を与えたり、さまざまな危険から守ったりといった保護を親は与え続けるのです。

 チンパンジーは、私たちヒトに最も近縁な生き物で、メスが集団間を移籍する父系社会を築きます。子供は4~5歳くらいで離乳し、その前に母親が死ぬとほぼ生き延びることはできません。しかし、それ以降に母親を亡くしてもその影響は少ないとこれまでは考えられていました。

研究手法・成果

 今回、本研究グループは、タンザニア・マハレ山塊に生息する野生チンパンジーの長期データから、離乳後であっても、母親を亡くすと生存が困難になることを明らかにしました。これまでに孤児になった37頭のオスのデータを年齢ごとに分析すると、興味深いことに、5~13歳のオスも期待寿命に達する前に死亡してしまう例が多かったのです。5~13歳というのは、子供期から青年期にあたります。完全に自分で餌を食べることができるのはもちろん、次第に母親とは疎遠になり、オトナのオスたちの「社交の場」に参加していく時期です。


離乳後の6歳で母親を亡くしたニックというオス(写真は12歳の時のもの)。結局この個体は13歳までしか生きられなかった。

波及効果

 この発見は、チンパンジーにとっての母親の重要性がこれまで考えられていた以上に長く継続することを示唆するものです。母親との関係が疎遠になっていくとはいえ、重要な局面で母親と一緒に食物を食べることができたり、他個体とのけんかの際に母親からの助けがあったり、といった利益があるのだろうと考えられます。母親がいることが心理的な安心感に繋がっている可能性もあります。

 母親による授乳が終わった後も、長い間子供のサポートを続けるというヒトの特徴は、程度の違いはあれ、近縁なチンパンジーにも共有されていたのです。これは、長期にわたって継続するヒトの親子関係がどのように進化してきたのかを明らかにする上でも、重要な知見と言えるでしょう。

今後の予定

 チンパンジーの母親から大きくなった子供へのサポートについてはあまり体系的な研究はありません。今後は、そうした具体的なサポート行動を調べることで、父系社会における母親の重要性を明らかにしていきたいと思います。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/ajpa.22411

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/179391

Michio Nakamura, Hitoshige Hayaki, Kazuhiko Hosaka, Noriko Itoh, Koichiro Zamma
"Orphaned male Chimpanzees die young even after weaning"
American Journal of Physical Anthropology
Article first published online: 1 Nov 2013

 

  • 朝日新聞(11月6日夕刊 10面)、京都新聞(11月6日 24面)、産経新聞(11月6日 22面)、中日新聞(11月6日 27面)、日本経済新聞(11月6日夕刊 14面)および毎日新聞(11月6日 26面)に掲載されました。