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細胞核の運動のしくみの解明 -植物固有のナノマシンの発見-

2013年8月23日


左から西村教授、田村助教、岩渕特別研究員

 西村いくこ 理学研究科教授、田村謙太郎 同助教、岩渕功誠 日本学術振興会特別研究員らのグループは、植物の細胞核の運動のしくみを初めて明らかにしました。

 植物の細胞核の運動には、繊維状タンパク質(細胞骨格タンパク質)アクチンのレールとモータータンパク質の働きが重要と考えられてきましたが、そのしくみは長く謎のままでした。同グループの研究により、植物固有のミオシンXI-iが核をつかんで、アクチンのレールそって移動させることを発見しました。ミオシンXIは分子モータータンパク質の中でも高い運動活性を持つと考えられており、植物が巨大な核を移動させるしくみが分かってきました。植物が周りの環境に適応して成長していくための核運動の役割の解明が進むことが期待されます。

 本研究成果は、米国科学誌「Current Biology」のオンライン速報版(2013年8月22日)に掲載されました。

背景

 細胞核(核)は、約200年前にラン植物で初めて発見・記述されました。核は真核生物に普遍的な細胞小器官で、遺伝情報DNAの保持と複製を担っており個体の生命活動を担っています(図1)。植物の核が動いていることは、1884年に記載されています。植物は周りの環境や成長段階に応じて、核を自由自在に細胞内運動させており、この核運動には、繊維状タンパク質アクチンのレールとモータータンパク質の働きが重要と考えられてきましたが、そのしくみは長く謎のままでした。


図1:シロイヌナズナの根毛の細胞と核

核はGFP蛍光(Nup50a-GFP)で緑色に、細胞壁はpropidium iodideでマゼンダ色に標識

研究手法・成果

 モデル植物であるシロイヌナズナを用いた分子遺伝学的解析から、核の形が異常になる変異体(kaku1と命名)を単離しました(図2)。このkaku1変異体は、核の形態異常の外、細胞内での核の運動能力の低下という表現型を示しました(図3)。これらのkaku1表現型の原因遺伝子は、植物固有のミオシンモータータンパク質(ミオシンXI-i)でした。ミオシンXI-iは、核の形づくりと運動の鍵を握っていることが分かりました。ミオシンXI-iは、核の外膜タンパク質(WITとWIP)と内膜タンパク質(SUN)と結合して、運動のためのナノマシンを形成していました(図4)。この運動ナノマシンが、細胞骨格アクチンのレールに沿って核を運動させていました。


図2:野生型シロイヌナズナとミオシンXI*i欠損変異体の根毛の核の形態
核内膜タンパク質SUN2とRFPの融合タンパク質で標識した核。野生型の核は細長い形態をしているが、ミオシンXI-i欠損変異体の核は核膜が陥入し小型化している。


図3:野生型シロイヌナズナとミオシンXI-i欠損変異体の根と根毛細胞内でも核の運動
0、22.5、45分後の核の位置をそれぞれ青、緑、赤色で染色している。ミオシンXI-i欠損変異体では核の運動がほとんどないため、3色の核が重なって白く見えている。


図4:植物の細胞核の運動を担う新規ナノマシン

 

ミオシンXI-iと核の外膜タンパク質(WITとWIP)と内膜タンパク質(SUN)から構成されるナノマシンは、細胞骨格アクチンのレールに沿って細胞核を運動させる。

 細胞核の運動は生物種を問わずに普遍的に観察される現象ですが、ミオシンモーターとアクチン繊維による運動は他の生物種では見つかっていないことから、植物が進化の過程で独自に獲得したしくみと考えられます。移動できない植物は、この装置を使って、大切な遺伝情報を格納している核を外界のストレスから守っていると考えられます。植物の核は光依存的に細胞内を運動していることが知られていますが、特に暗条件下での核のポジショニングにこの機構が利用されていることも明らかになりました。130年来の謎であった、植物の細胞核の運動のメカニズムを初めて解き明かすことができました。

波及効果

 個体の成長や周りの環境に適応する段階で核運動が重要な役割を担っていることが示唆されています。今後、ミオシンXI-iタンパク質の解析を通じて、より過酷な環境に適応した作物の開発につながる研究展開が強く期待できます。

用語解説

ミオシン

細胞内のモータータンパク質として動物・植物に広く存在している。多くのグループが知られているが、ミオシンXIは植物固有のグループで、13種類のメンバーが含まれている。ミオシンXI-iはメンバーの一つである。

書誌情報

[doi] http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2013.07.035

Myosin XI-i Links the Nuclear Membrane to the Cytoskeleton to Control Nuclear Movement and Shape in Arabidopsis

Kentaro Tamura, Kosei Iwabuchi, Yoichiro Fukao, Maki Kondo, Keishi Okamoto, Haruko Ueda, Mikio Nishimura and Ikuko Hara-Nishimura

Current Biology, Available online 22 August 2013

 

  • 京都新聞(8月23日 27面)および中日新聞(8月23日 3面)に掲載されました。