カーボンナノチューブを効率良く光らせる新たなメカニズムを発見-希少元素を使わず常温で動作するナノサイズの量子光素子の実現に期待-

カーボンナノチューブを効率良く光らせる新たなメカニズムを発見-希少元素を使わず常温で動作するナノサイズの量子光素子の実現に期待-

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用語解説

カーボンナノチューブ

炭素の六員環(亀の子格子)からなるグラフェンシート1層から数層を、直径1から数ナノメートルの同心円筒状に丸めた構造を持つナノ材料。特に、グラフェンシート1層からなるものを単層カーボンナノチューブと呼ぶ。ナノサイズの直径に比べて、その長さは数ミクロンから数ミリメートル程度のものを合成することが可能であり、人類が作り得る最も理想に近い1次元ナノ構造(量子細線)の一つと考えられている。グラフェンシートの巻き方によって、金属にも半導体にもなるという特異な性質を持ち、今回の研究では半導体型のカーボンナノチューブを用いた。

量子細線

一般的に、電子が2次元方向に閉じ込められた状態、またはそのような状態が実現されているナノ構造のことを指す。理想的な量子細線の中では、電子は残りの1次元方向だけに動くことができるため、量子細線中の電子は、バルクとは異なる1次元電子系に特有の性質を示す。

発光の効率

ここでは、ある状態にある励起子1個が、光の量子であるフォトン(光子)1個に変換される効率のことを指す。この値が高いほど、効率良く明るく光る(発光する)ことを示す。

量子ドット

一般的に、電子が3次元全ての方向に閉じ込められた状態、またはそのような状態が実現されているナノ構造のことを指す。このような状態は、通常、化合物半導体などをナノサイズの粒子や円盤状に自己組織化させることで作られる。単電子トランジスタ、単一光子発生器、量子ドットレーザー、量子ドット太陽電池など、さまざまな応用が期待されている。今回の研究では、量子細線であるカーボンナノチューブ上で既に2次元方向に閉じ込められている電子から、さらにナノチューブ軸方向の運動の自由度を奪うことで、量子ドット状態を作っている。

レアメタルやレアアース

ガリウムやインジウムなどの希少金属や、イットリウムやエルビウムなどの希土類のような、流通量や産出量が少なく希少で高価な元素のこと

励起状態

物質中の電子などが、光を吸収するなどしてエネルギーを得た状態

励起子

物質中の電子が光の吸収などによりエネルギーを得ると、マイナスの電荷を帯びた電子が高いエネルギー状態(励起状態)に遷移するが、そのときに、電子が抜けた穴はホールと呼ばれるプラスの電荷を帯びた粒子のようにふるまう。励起電子とホールはそれぞれマイナスとプラスの電荷を持つのでお互いに引きつけ合い、水素原子(プラス電荷を持つ原子核の周りをマイナス電荷を持つ電子が回っている)によく似た束縛状態を作る。そのような、電子とホールの束縛状態を励起子と呼ぶ。

単一光子発生素子

絶対に盗聴不可能な量子暗号通信に必要な発光素子。機能としては、必要なときに(例えばボタンを押したときに)光の量子であるフォトン(光子)を一つだけ発生させることが求められる。このような光機能を固体で実現するには、既存の技術では、光ファイバー通信帯域では通常レアアースやレアメタルを原料とする化合物半導体量子ドットを用いる必要があり、その動作には、液体窒素温度以下の極低温が必要である。