過冷却液体中のミクロなスケールでの固体的振る舞いの観測に成功-液体状態の基礎理解とガラス転移の解明に期待-

過冷却液体中のミクロなスケールでの固体的振る舞いの観測に成功-液体状態の基礎理解とガラス転移の解明に期待-

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用語解説

過冷却液体状態とガラス転移、ガラス状態

 液体を冷却していくと通常凝固点で結晶化しますが、結晶化を回避するような条件下で冷却を行うことで、凝固点以下でも液体状態が存在可能な場合があります。このような液体状態を過冷却液体状態と呼びます。さらに冷却を続けると、やがて液体で見られるような分子の拡散が起きなくなります。この変化をガラス転移と呼び、液体はガラス状態になります。ガラス状態では、結晶に比べると分子が乱雑に配置された状態となっています。

ホッピング緩和過程

 分子の拡散的な運動による緩和ではなく、ある場所から別の場所へホッピング(跳躍)により運動する緩和過程のことを言います。

大型放射光施設SPring-8

 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理や利用促進業務はJASRIが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

核共鳴散乱γ線

 放射光や放射性同位体線源で共鳴励起された原子核から散乱されてくるγ線のことで、今回の測定では、SPring-8の高輝度放射光を用いて57Feの原子核を励起することによって[励起準位の寿命141ns、エネルギー不確定幅4.6neV(ナノエレクトロンボルト)]、高い指向性で単色性の高いγ線を生成しました。このγ線のエネルギー14.4keV(キロエレクトロンボルト)は波長に換算すると0.086nmであるため、原子・分子スケールの構造を精密に観測するのに適しています。

準弾性散乱測定

 プローブとなる光などが試料によって散乱されるとき、そのエネルギーが変化する場合を非弾性散乱と呼びますが、特にそのエネルギー変化が散乱体の拡散に由来するもの等で小さいものを準弾性散乱と呼んでいます。57Fe原子核からの核共鳴散乱γ線を用いた準弾性散乱実験では、線幅neVと同程度の散乱光のエネルギーの幅の変化を観測することにより、そのような線幅の広がりをもたらす100ns程度の時間スケールの運動の様子を調べることができます。さらに、散乱γ線を観測する散乱角を選択することで、運動を観測する構造のサイズを選択することができ、γ線の波長程度の原子分子スケールの構造の運動を調べることができます。