前頭前野から高次視覚野への物体認知のためのトップダウン信号

前頭前野から高次視覚野への物体認知のためのトップダウン信号

2012年5月21日

 二宮太平 霊長類研究所特定研究員、井上謙一 同特定助教、高田昌彦 同教授らの研究グループは、動き・奥行きや色・形など、視覚情報に基づく物体認知に前頭前野から発信されるトップダウン信号が重要な役割を果たしていることを発見しました。

 この研究成果は、2012年5月17日のJournal of Neuroscienceオンライン版に掲載されました。

概要

 私たちが普段見ている視野内のさまざまな物体は、その視覚情報の要素ごとに異なる大脳視覚野で処理されていることがわかっている。例えば、頭頂葉のMT野は主に物体の動きや奥行きの情報を処理しており、側頭葉のV4野は主に色や形の情報を処理している。これらの領域は単純に目に映る物体に反応するだけでなく、記憶や注意などの状況に合わせて活動が変化することが知られている。このような高度な脳機能には前頭前野で形成される認知情報が必須であると考えられる。今回、二宮 特定研究員、井上 特定助教、高田 教授らの研究グループは、MT野とV4野に伝達されるトップダウン信号が前頭前野の46野腹側部から発信されていることを明らかにした。46野腹側部は特に作業記憶に重要な役割を担っていて、高次視覚野に対して今どこにある、どのような物体に注目すべきかといった情報を提供している可能性がある。さらに、前頭前野からMT野とV4野に伝達される信号が、眼球運動の中枢である前頭眼野や外側頭頂間溝周辺領域の異なる神経細胞によって中継されていることも明らかになった。以上の結果は、動き・奥行きや色・形といった視覚情報に基づく物体認知に前頭前野から発信されるトップダウン信号が本質的な役割を果たしていることを示唆している。このような前頭前野と高次視覚野との相互作用の神経基盤を理解することによって、注意障害など高次脳機能障害の病態解明、さらには治療法の開発に繋がることが期待できる。

図1:前頭前野からMT野およびV4野への入力様式
サル脳を横から見た図。MT(赤)とV4(青)は46野腹側部から認知機能に関する情報を受けている。また、MTは補足眼野からも眼球運動に関係する入力を受けている。これらの入力情報は、前頭眼野や外側頭頂間溝周辺領域の異なる神経細胞によって中継されている。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.6295-11.2012

Taihei Ninomiya, Hiromasa Sawamura, Ken-ichi Inoue, and Masahiko Takada.
Segregated Pathways Carrying Frontally Derived Top-Down Signals to Visual Areas MT and V4 in Macaques.
The Journal of Neuroscience. 16 May 2012, 32(20):6851-6858.
doi: 10.1523/JNEUROSCI.6295-11.2012

今回の研究は、以下の事業の一環として行われました。

科学研究費補助金 若手研究(B)
研究課題名:「狂犬病ウイルスを用いた大脳皮質トップダウン式視覚情報処理機構の生理学解剖学的研究」
研究代表者: 澤村裕正(東京大学医学部眼科学教室助教)
研究期間: 2012年4月~2013年3月

科学研究費補助金 特定領域研究
研究課題名:「狂犬病ウイルスを用いた大脳視覚野背側腹側経路の機能連関の解剖学的解明に関する研究」
研究代表者: 澤村裕正(東京大学医学部眼科学教室助教)
研究期間: 2009年4月~2010年3月

科学研究費補助金 若手研究(B)
研究課題名:「狂犬病ウイルスを用いた大脳皮質での立体視情報処理機構の解剖学的解明に関する研究」
研究代表者: 澤村裕正(東京大学医学部眼科学教室助教)
研究期間: 2008年4月~2010年3月