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ニホンザルはなぜ樹皮を食べるのか

2012年3月15日

 今井啓雄 霊長類研究所准教授、鈴木南美 同大学院生、平井啓久 同教授らの研究グループは、霊長類の食べ物への指向性の原因を遺伝子レベルで検討した結果、味覚受容体の変異が原因である可能性を発見しました。この研究成果は、2012年3月7日の「Biology Letters」オンライン版に掲載されました。

研究の概要

 ニホンザルは冬場に樹皮等を食べて生存しています。この行動を見ても、人間がおいしくなさそうと思うように、霊長類の中でも食べ物の指向性は様々です。この原因を遺伝子レベルで検討した結果、味覚受容体の変異が原因である可能性を発見しました。種々の霊長類はほぼ同じ遺伝子セットを持っていますが、その配列は微妙に異なります。今回の研究ではヒト、アフリカのチンパンジー、中国のラングール、そしてニホンザルを対象に、柳の樹皮等に含まれる苦味(サリシン)などを受容する苦味受容体(TAS2R16)に注目し、培養細胞でタンパク質の性質を調べました。その結果、まず、それぞれの霊長類で苦味耐性が異なることが示されました。特に、ニホンザルの苦味受容体は苦味耐性が高く、このことは行動実験でも確認できました。また、タンパク質の変異体解析により、原因となる変異部位が特定できました。生態学的観察により、ニホンザルは他の種とは異なり、柳の樹皮等を採食することが報告されていますが、その原因はこの苦味受容体の変異が原因である可能性が高いと考えられます。進化の過程で起こった遺伝子の変異が、採食行動にまで影響を与えているわけです。

 本研究は、東京大学農学生命科学研究科「味覚サイエンス」講座、北京大学生物多様性研究拠点との共同研究により行われました。

   

  1. 図: 様々な苦味物質に対する霊長類の苦味受容体(TAS2R16)の反応パターン
    (a) それぞれの苦味物質に対する反応感受性をプロットした。内側にあるほど感受性が高く(耐性が低い)、外側にあるほど感受性が低い(耐性が高い)。それぞれの霊長類種の反応パターンは苦味物質ごとに異なる。特にニホンザルのみ、柳の木の皮に含まれるサリシンなどの苦味に耐性が高い。青酸化合物であるアミグダリンに対しては、どの種も感受性が高く、苦味を感じて忌避できるようになっている。
    (b) 受容体の86番目のアミノ酸変異による感受性の変化。ヒトやラングールの受容体をニホンザル型(86番目がT:スレオニン)にすると耐性が高くなり、ニホンザルをヒト型(E:グルタミン酸)にすると耐性が低くなる。

論文情報

論文タイトル

Functional diversity of bitter taste receptor TAS2R16 in primates.

著者

今井啓雄1、鈴木南美1、石丸喜朗2、櫻井敬展2、Yin Lijie3、Pan Wenshi3、阿部啓子2、三坂巧2、平井啓久1
(京都大学霊長類研究所1、東京大学農学生命科学研究科2、北京大学生物多様性研究拠点3

本研究成果は、主に以下の事業・研究課題によって得られました。

科学研究費補助金 基盤研究(B)

  • 研究課題名: 「ゲノム多様性を基盤とした霊長類の種内・種間感覚特性の解明」
  • 研究代表者: 今井啓雄(京都大学霊長類研究所准教授)
  • 研究期間: 2009年4月~2012年3月

グローバルCOE A06

  • 研究課題名: 「生物の多様性と進化研究のための拠点形成-ゲノムから生態系まで」
  • 研究代表者: 阿形清和 (事業推進者として今井啓雄、平井啓久を含む)
  • 研究期間: 2007年9月~2012年3月
  • 論文は以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1098/rsbl.2011.1251
  • 以下は論文の書誌情報です。
    Hiroo Imai, Nami Suzuki, Yoshiro Ishimaru, Takanobu Sakurai, Lijie Yin, Wenshi Pan, Keiko Abe, Takumi Misaka, and Hirohisa Hirai Functional diversity of bitter taste receptor TAS2R16 in primates Biol. Lett.
    rsbl20111251; published ahead of print March 7, 2012,
    doi:10.1098/rsbl.2011.1251

 

  • 朝日新聞(3月23日 36面)、京都新聞(3月16日 25面)、産経新聞(4月10日 23面)および日刊工業新聞(3月27日 28面)に掲載されました。