セクション

脳脊髄液プロテオミクスパターン解析手法を用い多発性硬化症関連疾患の鑑別が可能になった

2011年10月11日


左から近藤臨床教授、小森氏、池川 京都府立医科大学
准教授

 近藤誉之 医学部臨床教授、小森美華 医学研究科研究生、池川雅哉 京都府立医科大学准教授らの研究グループは、脳脊髄液プロテオミクスパターン解析手法を用い、多発性硬化症関連疾患を鑑別することに成功しました。

 神経難病の一つである多発性硬化症および類縁疾患は、臨床経過や現行の検査所見のみでは、診断、治療法の選択が困難な場合があります。研究グループは、質量分析計を用いて髄液中タンパク質・ペプチドを俯瞰するプロテミクスパターン解析法を開発しました。この解析法によって、病態を反映した診断、疾患分類が可能になることが期待できます。

 この研究成果は、「Annals of Neurology」に掲載されました。

研究の概要

 神経難病である多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)および類縁疾患は、中枢神経系を主座とする炎症性の自己免疫疾患と考えられています。これらの疾患においては、類似した臨床経過であっても、病態が異なることがあります。治療反応性も異なり、MSに有効なインターフェロンβ製剤が、類縁疾患の一つである視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica; NMO)では、有害に働く場合があることも報告をされています。日本において、MSとされてきた患者の一部に、NMOの病態に強く関与するバイオマーカーである抗アクアポリン-4(AQP4)抗体が存在することが明らかになりました。抗AQP4抗体陽性であれば、NMOの診断基準を満たさなくても共通の病態が存在すると推察されるようになってきており、抗AQP4抗体の有無は治療方針の決定に非常に重要です。一方、NMOと変わらない臨床像を呈しながら、抗AQP4抗体が陰性の場合もあります。視神経や脊髄に病変がなく、抗AQP4抗体陰性でもインターフェロンβ製剤の無効あるいは増悪例が存在します。神経内科専門医においても、臨床所見、現状の検査所見のみでは、鑑別が難しく治療方針に苦慮する場合があります。

 そこで我々は、質量分析法とバイオインフォマティクスを有効に組み合わせたプロテオミクスアプローチに着目しました。これまで、MSの患者さんの脳脊髄液の生化学的な特徴については報告がありましたが、本研究では、ブルカーダルトニクス社と共同で、マトリックス支援レーザー脱離型飛行時間質量分析計(MALDI-TOF) と磁性ビーズを組み合わせた最新のプロテオミクス解析手法(クリンプロット法)を用いて、MS関連疾患を鑑別しうるような、疾患バイオマーカーの探索を試みました(図1)。


図1

 解析対象の患者さんはMS、抗AQP4自己抗体陽性NMO(SP-NMO)、抗体陰性NMO(SN-NMO)、一次進行型多発性硬化症(PPMS)、筋委縮性側索硬化症(ALS)、他の炎症性神経疾患(OIND)群を含む107例です。ほんの5μlの脳脊髄液を磁性ビーズと共存させ、マグネットに付着したビーズの表面を洗浄し、ビーズ表面に付着したタンパク質やペプチドを精製、溶出し、質量分析計を用いて解析を行いました。その結果、驚いたことにSP-NMO群は、特に再発期に、MS群と90%以上の確率で鑑別が可能でした(図2)。

 また、得られたピークのうち、いくつかは、MS群からSP-NMO群を、鑑別スコア0.95以上の確率で群別することができました。さらに再現、追加解析として、各種疾患群を含む84例の患者さんの脳脊髄液に対し同様の解析を行いました。その結果、最初に得られた解析結果をほぼ再現し、解析法によっては、再発期のSP-NMO群は、MS群とより信頼度の高い確率で鑑別できることが確認されました。また、SN-NMO群についてはその病態の多様性が示唆されました。さらに、パターンマッチング法という新しい統計手法を応用することにより、質量分析によって得られた各疾患群のスペクトラムから疾患の樹形図を作成した結果、PPMS群の脳脊髄液プロテオミクスパターンは、変性疾患であるALSにより近い結果になりました(図3)。

 本研究の結果から、脳脊髄液プロテオミクスパターン解析は、MSとNMOの鑑別に有効であることや、脳脊髄液プロテオミクスパターンから神経疾患の診断パネルを構築できる可能性が示されました。本研究結果をもとに、さらなる解析をすることで、MS関連疾患をより鋭敏に、より正確に診断し、治療への反応性なども含めた治療方針決定に役立つものと考えられます。

関連リンク

  • 論文は以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1002/ana.22633
  • 以下は論文の書誌情報です。
    Komori M, Matsuyama Y, Nirasawa T, Thiele H, Becker M, Alexandrov T, Saida T, Tanaka M, Matsuo H, Tomimoto H, Takahashi R, Tashiro K, Ikegawa M, Kondo T. Proteomic pattern analysis discriminates among multiple sclerosis-related disorders. Accepted manuscript online: 12 SEP 2011.
    DOI: 10.1002/ana.22633

 

  • 読売新聞(10月22日 2面)に掲載されました。