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二次元空間に「最強電子ペア」をもつ超伝導を実現

2011年10月10日


左から芝内准教授、水上氏、寺嶋教授、松田教授

 水上雄太 理学研究科物理学・宇宙物理学専攻大学院生、松田祐司 同教授、芝内孝禎 同准教授、寺嶋孝仁 低温物質科学研究センター教授らの研究グループは、通常の電子の1000倍にも達する大きな有効質量を持つ「重い電子」を、人工的に2次元空間に閉じ込め超伝導にすることに世界ではじめて成功しました。超伝導は二つの電子がペアを組むことによって生じますが、本研究では、これまでの超伝導体では実現できなかった極めて強く結合した電子ペアをもつ特異な超伝導状態が生じていることを明らかにしました。本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Physics」誌に平成23年10月9日(英国時間)にオンライン公開されました。

 本研究成果は独自の技術を用いてレアアース(希土類)元素の化合物を交互に積み重ねた「人工超格子」を作製することにより、電子を狭い空間に閉じこめ、自然界には存在しない電子状態を実現することにより得られたものです(図1参照)。この研究によって、重い電子状態を人工的に制御することが可能になり、低次元でおこる新しい超伝導発現のメカニズムの解明へつながると期待されます。

 本研究は、文部科学省新学術領域研究「重い電子系の形成と秩序化」、グローバルCOE「普遍性と創発性が紡ぐ次世代物理学」、科学研究費補助金の助成を受けました。また、京都大学低温物質科学研究センターの研究支援を受けました。

【論文情報】
論文名:" Extremely strong coupling superconductivity in artificial two-dimensional Kondo lattices" (2次元人工近藤格子における超強結合超伝導)
著者:Y. Mizukami(1), H. Shishido(1,※), T. Shibauchi(1), M. Shimozawa(1), S. Yasumoto(1), D. Watanabe(1), M.Yamashita(1), H. Ikeda(1), T. Terashima(2), H. Kontani(3), Y. Matsuda(1)
所属:(1)京都大学理学研究科、(2) 京都大学低温物質科学研究センター、(3) 名古屋大学理学研究科、※現大阪府立大学工学研究科
Nature Physics. Published online 09 October 2011. DOI:10.1038/nphys2112
http://dx.doi.org/10.1038/nphys2112

研究の背景と経緯

 超伝導は電気抵抗がゼロになる現象で、消費電力を発生することなく電気を流すことができるため、省エネルギーにつながる技術への応用が期待されています。しかしながら、室温で超伝導になる物質は見つかっておらず、実際にアルミニウムなどの通常の金属でおこる超伝導の理論では、非常に低い温度でのみ起こる現象であることが知られています。ところが、電子同士の反発力が強くなった「強相関電子系」とよばれる物質群では、従来の理論の枠組みを超えた比較的高い温度で超伝導が起きうることが明らかになってきており、新しいタイプの超伝導発現機構の探索が急務となっています。

 電子同士の反発力が非常に強い物質では、ふつうの真空中の電子よりも重い質量を持つようにふるまう「重い電子」が現れます。さらに、このような電子を狭い空間に閉じ込めると、さらに反発力が働き電子は動きづらくなり、有効質量が通常の電子の1000倍にも重くなった究極の強相関電子状態となります。このような電子を2次元空間に閉じ込めた状態で超伝導を起こすことができるのか、またこのような超伝導が実現した時にどのような性質を持つのかということは未知の問題でした。

研究成果の内容と意義

 今回当研究グループは、分子線エピタキシーという技術を用いて希土類元素の一つであるセリウム(Ce)を含む重い電子系化合物の人工超格子を作製し、2次元空間に超伝導状態を世界で初めて実現しました(図2参照)。我々の実現した系では、有効質量が真空中の電子の1000倍近い(水素原子の原子核(陽子)に匹敵する重さ)電子が2次元空間を動き回り、電気抵抗を生ずることなく電気を流します。

 超伝導では電子がペアを組んで結合した状態となっています。この電子対の結合が壊れると超伝導状態は壊れてしまいます。この結合の強さを表す指標は超伝導のメカニズムにより決定され、通常の超伝導体ではあまり物質によらずほぼ3.5であることが知られています。これに対して、今回の超伝導ではこの結合の指標が10を超えるという、前例のないほど強く結合した電子対を持っていることが明らかとなりました(図2参照)。これは結合エネルギーが超伝導転移温度から従来理論で予想される値に比べ3倍にも達する特異な超伝導が実現していることを意味しており、次元性を下げることにより出現した新しい超伝導メカニズムの解明に役立つと考えられます。

   

  1. 図1:今回作製したCeCoIn5(1層)/YbCoIn5(5層)超格子:(左)結晶構造と透過型電子顕微鏡による断面写真。白いスポットがセリウム(Ce)原子を示す。重い電子はCeを含む2次元平面に閉じこめられている。(右)横方向に積分した強度。Ce層のみ強い強度となっている。

    

  1. 図2:今回作製した超格子の超伝導特性。(左)電気抵抗率の温度変化。数字はCeCoIn5の枚数を表している。超伝導に伴い、電気抵抗率がゼロに向かって減少している様子がわかる。(右)重い電子を担うCe層の厚みを変えた時の超伝導の電子対の結合の強さの指標2Δ/kBTcの変化(左軸)および超伝導転移温度Tcの変化(右軸)。結合の指標は従来超伝導理論では3.5となる(点線)。

 

  • 京都新聞(10月10日 20面)、中日新聞(10月10日 34面)および読売新聞(10月10日 2面)に掲載されました。