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鳥類の音声における文法規則の神経コーディングの解明

2011年7月15日


左から渡邉教授、藤本研究生

 渡邉大 生命科学研究科・医学研究科教授、藤本久貴 医学研究科研究生らの研究グループは、ヒトの言語と同様に模倣により音声を学習する鳥類の脳の中に文法情報を表現している神経細胞を同定するとともに、その文法規則のコーディング様式を明らかにしました。この研究成果は、The Journal of Neuroscienceに掲載されました。

論文名:Neural coding of syntactic structure in learned vocalization in the songbird.

研究成果の概要

 スズメ目に属する鳥類は、生後に成鳥の歌(さえずり)を聴いて記憶し、これを模倣することで正常な歌を獲得します。その中でもジュウシマツは、ある種の文法規則に従って音素の並び方を変えることで複雑に変化する歌を学習することが知られています。研究グループは、脳がこのような文法規則をどのように処理するか明らかにするために、さえずり行動を妨げないように超小型の神経活動計測機器を使って、歌をさえずるジュウシマツの脳の神経活動を単一細胞の精度で計測しました。その結果、大脳前運動領域(HVC)から基底核(X)へ情報を送る神経細胞(HVCXニューロン)のバースト発火と呼ばれる神経活動が文法情報を表現していることを見いだしました。

 ジュウシマツの歌の文法規則は、図1に示すように音素の種類と各音素間の遷移ルールを定義するダイアグラムとして表すことができます。歌をさえずっている時、HVCXニューロンのバースト発火が音素の種類あるいは音素間の遷移のいずれかの情報を表していることを明らかにしました(音素選択性と遷移選択性)(図2)。さらに同じ音素を繰り返す場合には、バースト発火により、繰り返す音素の情報に加えて、繰り返しの開始と終了、そして繰り返しの数を表現していることを明らかにしました(図3)。これらの結果は、さえずっている時のHVCXニューロンの神経活動が文法規則のダイアグラムを表現していることを意味します。

 またHVCXニューロンの一部は、自己の音声と良く似た音声を聴覚刺激とすると、その音声を発声するときと同じパターンの神経活動を示す「ミラーニューロン」であることが知られています。このように感覚情報と行動情報のマッチングを行うミラーニューロンは、元々ヒトの言語野に相当するサルの大脳領域で発見され、ヒトの言語野にもその性質が保存されていることが知られています。研究グループは、このミラーニューロンの性質が文法規則により多様に変化する音声でも成立するかについて実験を行いました。その結果、文法規則に従った歌を聴かせた時にも、歌をさえずるときと同じ遷移選択的な神経活動を鳥類のミラーニューロンが示すことが明らかになりました。これは、鳥類が聴覚情報の中から音声の文法規則を抽出し、自己の音声にその文法規則を適用している可能性を示唆します。

 興味深いことに、本研究で見いだされた鳥類の脳での文法規則の情報処理と、複雑な動作の組み合わせを学習したサルの脳での動作の順番や回数に関する情報処理には、いくつかの共通点があることが分かりました。今回の研究成果を手がかりにして、聴覚情報からどのように文法規則が抽出されるのか、さらに文法規則に基づく音素の配列にどのように実際の発音(音の高さや長さやアクセント)が結びつけられるのか研究を進めるとともに、サルなど哺乳類モデル動物での知見を組み合わせることで、ヒトの言語の基盤となる脳の働きについて神経細胞のレベルで解明することが期待出来ます。

参考図

   

  1. 図1. ジュウシマツの歌の文法規則を示すダイアグラムの例。
    アルファベットは歌を構成する音素、矢印は各音素間の遷移ルールを示す。

   

  1. 図2. 文法規則を示す神経活動の例。上段は、図1のダイアグラムの音素Bを表現するバースト発火。前後の音素の配列に影響されない。下段は音素Bから音素Dへの遷移を表現するバースト発火。

   

  1. 図3.  音素の繰り返しにおける文法規則の3種類の情報

 

本研究への支援

 本研究は、武田科学振興財団(武田報彰医学研究助成)、上原記念生命科学財団(特定研究助成)、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラム、日本学術振興会(科学研究費補助金)の支援を受けました。

関連リンク

 

  • 京都新聞(7月19日 22面)に掲載されました。