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炭化珪素バイポーラトランジスタで世界最高の電流増幅率を実現~SiC BJTによる超低損失パワーエレクトロニクス実現に向けた大きな一歩~

2011年5月17日


左から須田准教授、三宅研究員、木本教授

 須田淳 工学研究科電子工学専攻准教授、三宅裕樹 研究員(工学研究科博士課程3回生) 、木本恒暢 教授の研究グループは、次世代パワーデバイスとして期待される炭化珪素(SiC)バイポーラトランジスタの飛躍的な性能向上に成功しました。この研究成果は、5月23~26日に米国カリフォルニア州サンディエゴで開催される米国電気電子学会(IEEE)のパワー半導体デバイス国際シンポジウム(International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs, ISPSD)にて報告されます(注)。

(注)現地時間2011年5月25日 11時5分~11時30分に口頭講演にて発表予定
4H-SiC Bipolar Junction Transistors with Record Current Gains of 257 on (0001) and 335 on (0001)
Hiroki Miyake, Tsunenobu Kimoto, Jun Suda
Kyoto University, Japan
講演プログラム、タイトルおよび講演者は既にISPSDのウェブサイトにて公開済。
http://ispsd2011.e-papers.org/ESR/session_index.php?PHPSESSID=66kfvn7o4arvt9o3u344249j64
http://www.ispsd2011.com/file/Program_Preliminary.pdf

研究背景

 資源・エネルギー問題は今世紀の最重要課題です。この問題を解決するためには、太陽光発電や風力発電など自然エネルギーの活用が重要ですが、それと同様にエネルギーを効率的に利用する技術(省エネルギー技術、高効率化・低損失化技術)が重要です。

 エネルギーには様々な形態がありますが、近年、オール電化住宅や電気自動車の台頭に見られるように電気エネルギーの占める割合が年々増大しており、電気エネルギーの有効利用の重要性はますます高まっています。

 電気エネルギーの変換・制御は半導体パワーデバイス(ダイオードやトランジスタ)が用いられています。パソコンやデジタル家電の電源や、冷蔵庫やエアコン、電気自動車(ハイブリッド自動車や燃料電池自動車も含む)や鉄道車両の電力変換器(インバータ)など、身の回りのあらゆる所にパワーデバイスが用いられています。

 半導体パワーデバイスの性能向上は、電力の有効利用に直結しますが、長年の研究の結果、現在のデバイスの性能は、使用されている半導体材料である硅素(シリコン、Si)の理論限界に達しつつあり、さらなる性能向上には新しい半導体材料の利用が不可欠と考えられています。

 その材料として期待を集めているのが炭化珪素(シリコンカーバイド、SiC)です。京都大学を含む国内外の研究機関や企業において、SiCを使ったパワーデバイスとして、SiCショットキーバリアダイオード(SBD)やSiC 金属-酸化膜-半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の研究開発が精力的に進められています。SiCパワーデバイスは、次世代の超低損失パワーエレクトロニクスを実現するための鍵となるデバイス(キーデバイス)であり、その研究開発は極めて重要な意味を持ちます。

 ところで、パワートランジスタにはMOSFETの他に、バイポーラトランジスタ(BJT)という全く別の原理で動くものがあります。理論的にBJTはMOSFETよりもさらに損失を低減できる可能性を秘めており、特に高い電圧を扱う電気自動車や鉄道車両などの省エネルギーに貢献できると期待されます。

 SiC BJTに関しては2000年頃から国内外の複数の研究機関で研究が進められてきました。SiC BJTの最も重要な性能指標に電流増幅率がありますが、過去の研究において高い電流増幅率をもつSiC BJTは実現されていませんでした。SiC BJTは理論的には高い潜在性を持つが、現実には高い電流増幅率の素子を作製できないということで、SiC BJTの研究はSiC MOSFETのような研究開発の盛り上がりに欠けていた状況です。

本研究の成果

 須田准教授のグループは、7年前からSiC BJTの潜在性に着目して、SiC BJT最大の問題である電流増幅率向上にさまざまな観点から取り組んできました。

 京都大学における長年の基礎研究で蓄積したSiC材料技術、物性制御技術、デバイス技術の知見を基に、新しいSiC BJTの作製プロセスの開発を進め、この度、従来の電流増幅率の世界記録(2007年の米国Cree社による110、2008年の本田技術研究所と新電元工業の共同研究による134)を大きく上回る257~335という極めて高い電流増幅率を持つSiC BJTの作製に成功しました。

 具体的には、(1)SiC中の電子的な欠陥を低減させる工程を作製プロセスに導入し、(2)トランジスタ表面における望ましくない電子-正孔再結合を抑制するSiC/SiO2界面作製技術を組み合わせ、さらに(3)デバイスの構造を工夫することを行い、これらの相乗的な効果により世界記録を大きく上回る電流増幅率を達成しました。特に、増幅率が300を超える素子については、過去にSiC BJTの作製が試みられていなかったSiC結晶の反対極性面((0001), 炭素面と呼ばれる面)を活用するということも行っています。

学術的・社会的重要性と波及効果

 本研究は、SiC BJTの最大の問題であった電流増幅率の問題解決の方向性を実験的に実証するものです。本研究グループでは、SiC BJTの性能向上に詳細なメカニズム解明やさらなる高性能化を進める計画です。

 本成果がきっかけとなり、今後、国内外でSiC BJTの研究開発が活発化すると期待されます。SiC BJTは、特に、太陽光発電のパワーコンディショナー、電気自動車、鉄道車両、工場の産業機器など、(家電製品と比べると)比較的大容量・高電圧の用途で高い性能が期待されます。本研究成果は、これらの分野で次世代の超低損失(省エネルギー)パワーエレクトロニクスの構築に貢献する成果と言えます。

その他

 大学院博士課程3回生の三宅裕樹氏は日本学術振興会特別研究員制度の支援を受けています。また、本研究課題は、京都大学GCOEプログラム「光・電子理工学の教育研究拠点」のサポートを受けて進められました。

 

  • 京都新聞(5月22日 26面)、日刊工業新聞(5月18日 18面)、日本経済新聞(5月18日夕刊 14面)および毎日新聞(5月31日 21面)に掲載されました。