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太陽プロミネンスのバブルの謎が解明

2011年4月14日


左から柴田教授、A. Hillier大学院生

 柴田一成 理学研究科附属天文台教授・台長、A. Hillier 理学研究科附属天文台博士課程3回生らの研究グループの研究成果が、科学誌「Nature」の2011年4月14日号に掲載されました。

【論文情報】
タイトル: “Magneto-thermal convection in solar prominences”(太陽プロミネンスの磁気的熱対流)
著者: T. Berger, P. Testa, A. Hillier, P. Boerner, B. C. Low, K. Shibata, C. Schrijver, T. Tarbel, A. Title
第1著者の T. Berger 博士は、米国ロッキード・マーティン先端技術センター太陽天体物理学研究所所属

研究の概要

 太陽のプロミネンス(紅炎)は、太古の昔から皆既日食の際に太陽の縁で赤い炎または雲のように見える現象として知られていたが、その構造や形成メカニズムは長い間、謎であった。

 プロミネンス(図1上図)は温度が数千度~数万度と、太陽の中ではもっとも冷たい現象である。周りのコロナは百万度であるから、それに比べると温度はずっと低く100分の1くらいである。一方、密度はコロナより100倍くらい大きい。密度が大きいということは重いということであり、それが静かに浮かんているのは大きな謎だった。近年の観測によって、プロミネンスが浮かんでいるのは磁場の力による、ということが疑いのないものとなった。ところが、磁力線の形がどうなっているのかが、よくわからない。プロミネンスの磁場は観測が難しいので、いまだによくわかっていない。しかし、研究者たちは、重いプロミネンスのガスが、おそらくハンモックのような磁力線(図2)に引っ掛かって浮かんでいるのではないかと考えていた。

 2006年に打ち上げられた日本の太陽観測衛星「ひので」は、プロミネンス中に謎のバブル現象(図1上図)を発見し、世界に大きな驚きを呼び起こした。バブルとは「泡」である。水の中に取り込まれた空気は軽いので、泡(バブル)となって浮き上がっていくが、それとそっくりの現象がプロミネンス中に発見されたのだ。ところが、太陽のプロミネンスは、水とは似ても似つかない。むしろ、はりがねのような強い磁場によって貫かれた、がちがちの硬い現象だと思われていた。それが、水の泡のような「やわらかい」バブルがプロミネンス中のあちこちに出来て浮き上がっていくのが見つかったのである。どうしてそんなことが可能になるのか? そもそも、磁力線のハンモックによってプロミネンスが浮かんでいるというモデルは正しいのだろうか?

 我々はこの謎に挑んだ。昨年米国で打ち上げられた太陽観測衛星SDO(Solar Dynamics Observatory)と「ひので」衛星による共同観測と、コンピュータ・シミュレーションを駆使することによって、プロミネンスのバブルの謎を解明することに成功した。その結果、バブルは高温(百万度)であり(図1下図)、強い磁場に貫かれていることがわかった。従来のハンモック・モデルは大雑把には間違っていないが、ハンモック構造が静かにしているという描像は正しくないことが判明した。ハンモック中の磁力線はたえず動いており、高温のバブルが形成されたところは軽いので上昇し、低温高密となったところは下降するなど、対流構造を形成していることが判明した。

   

  1. 図1: プロミネンスの、「ひので」衛星可視光望遠鏡(SOT)による観測(上図)と、SDO極紫外線望遠鏡(AIA)による観測(下図)。極紫外線観測は25万度~100万度の高温ガスを観測しているのに対し、可視光観測は数千度~数万度程度の低温ガスを見ている。上図の prominence bubble と書いてあるところが、「ひので」で発見されたバブル。下図を見ると極紫外線で光っており、高温であることがわかる。
    (Courtesy of T. Berger, Lockheed Martin Advanced Technology Center)

   

  1. 図2: プロミネンスの磁力線のモデル。(上)3次元的な磁力線のモデル。(下左)同じモデルを別の角度から見たもの。緑の板状の構造がプロミネンス。(下右)プロミネンスの部分だけを拡大した図。線は磁力線。青い板のようなガスがプロミネンスの本体。重力が下向きに働いており、重いプロミネンスが、ハンモック状の形をした磁力線による磁力でささえられている。

    

  1. 図3: プロミネンス中のバブルの観測とシミュレーションの比較。シミュレーションは図2(下右)の磁力線を初期条件として、3次元空間で行っているが、表示はある断面における2次元密度分布を示す。

   

  1. 図4: プロミネンスのバブルの上昇の3次元電磁流体シミュレーション(図3と同じ計算モデル)。等密度面の3次元表示をしている。線は磁力線。

プロミネンスはなぜ重要か?

プロミネンスが突然噴出することがあり、そうすると、太陽フレア(太陽面爆発)が発生する。 同時に、コロナ質量放出が発生し、惑星間空間に大量の磁気プラズマが放出される。これらの磁気プラズマが地球に到達すると、磁気嵐が起こり、地球全体に様々な被害ー人工衛星の故障、通信障害、電力網寸断、などなどーを及ぼす。これらの被害を未然に防ぐためには、宇宙天気予報が必要である。 プロミネンスは地震の断層みたいなもの。いつ噴出するかが分かれば予報が可能になる。そのためにはプロミネンスの解明が必須なのである。

今回の研究から提唱された新たな仮説

プロミネンス中のバブルが磁力線をコロナ・キャビティ(図5)に運び、その過程によってキャビティに磁気エネルギーが次第にたまっていくのではないか。地震でいうと、断層にひずみがたまることに対応。磁場の量が限界に達すると噴出すると考えられる。

   

  1. 図5: (右)「ひので」衛星可視光望遠鏡で見たプロミネンス(図1(上)と同じ)。(左)「ひので」衛星X線望遠鏡で見たプロミネンス周辺のコロナ。図中の四角の領域が右の可視光観測領域。プロミネンスの上空に、X線で見て暗い領域がある。これをコロナ・キャビティという。プロミネンスが噴出するときコロナ・キャビティも同時に一緒に噴出し、コロナ質量放出を形成する。それが地球に到達すると磁気嵐が起こる。今回の研究の結果、プロミネンス中のバブルはコロナ・キャビティに磁気エネルギーを運ぶ役割を果たしており、そのために、バブルが発生している間キャビティには磁気エネルギーがたまり続け、ついには噴出に至る可能性がある、ということがわかったといえる。

関連リンク

 

  • 京都新聞(4月14日 23面)、日刊工業新聞(4月14日 17面)、日本経済新聞(5月9日 11面)および読売新聞(5月9日 10面)に掲載されました。