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テングザルの反芻行動の発見

2011年4月13日

 松田一希 霊長類研究所・日本学術振興会特別研究員(PD)の研究成果が、3月30日(英国時間)に英国科学誌「バイオロジー・レターズ」に掲載されました。

  • 日本語タイトル
    「テングザルの反芻行動」

研究の概要

 大型動物における、新しい行動の発見というのは、近年では非常に稀である。我々の研究チームは、テングザルというボルネオ島に固有のサルにおいて、牛などが食べ物を飲み込んだり、吐き戻したりするという「反芻(はんすう)」に類似した行動を発見した(図1)。霊長類において、このような行動が観察されたのは、世界で初めてである。

 テングザルは、霊長類の中でもコロブス亜科に属している。コロブス亜科に属するサルの胃の構造は、より葉を食べることに特殊化している ― 彼らの胃は4つにくびれており、前胃と呼ばれる第一の胃には、バクテリアが生息していて、そのバクテリアが、通常は消化しにくい葉のセルロースを分解し、エネルギーに変換してくれるのである。

 しかし、テングザルなどのコロブス亜科のサルは、葉の消化に特殊化した胃を進化させることに成功したものの、その消化活動には多大な時間が必要となるという欠点も有することになった。事実、テングザルは日中の70%以上もの時間を休息に費やしており、言い換えればそれは、消化のために一日の活動が制限されているということである。

 このような、葉食に特殊化した胃を進化させた動物群に属する、牛、鹿、キリン、ラクダなどの動物も、テングザルと同じような活動の制約が働いていると考えられている。しかし、これらの動物は、「反芻」という行動により、その消化の効率を高めることで、活動への制約を軽減していると考えられている。つまり、胃に一度いれた食べ物を、再び口にまで戻してさらに細かく噛み砕くことで、食べ物をより小さな断片にして、効率のよい消化を実現させているのである。

 今回、テングザルで観察された反芻に類似した行動も、上記のような動物群と同様に、消化の効率を上げることに役立っていると考えられる。実際に、テングザルで反芻行動が観察された日と、観察されなかった日の採食行動を比較してみると、観察された日では、より多くの時間を採食行動に費やしていることが明らかになっており、この行動によってより多くの食べ物を摂取できるという、適応的な意義を示唆している。

 テングザルのこの行動は、牛などの動物で見られる反芻に比べれば、その観察される頻度が極めて低いことから、牛などと全く同様の機能を有した反芻行動とは言い切れない。また、マレーシア領のキナバタンガン川の支流という、限られた個体群で見られた行動であり、ボルネオ全島に生息するテングザル個体群に共通の行動であるとも結論できない。しかし我々は、テングザルのオトナからコドモ個体に至るまでの23例で、この行動を観察しており、単なる偶発的、病的な行動とは考えにくく、今後、霊長類の生理学的な進化を考察する上での重要な行動であると考えている。

   

  1. 図1: 反芻行動をするテングザルのオトナ・メス(a, b)、オトナ・オス(c)

関連リンク

  • 論文は以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.1098/rsbl.2011.0197
    http://hdl.handle.net/2433/139444 (京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI))
  • 以下は論文の書誌情報です。
    Matsuda I, Murai T, Clauss M, Yamada T, Tuuga A, Bernard H, Higashi S.Regurgitation and remastication in the foregut-fermenting proboscis monkey(Nasalis larvatus). Biol Lett. 2011 Mar 30.

 

  • 京都新聞(4月23日 23面)、日刊工業新聞(4月15日 21面)、日本経済新聞(4月25日11面)および読売新聞(5月31日 31面)に掲載されました。