特定の細胞の生死を自在に制御するRNAスイッチ技術の開発

特定の細胞の生死を自在に制御するRNAスイッチ技術の開発

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用語解説

アポトーシス

細胞の死に方の一種で、管理・調節された細胞の「自殺」すなわちプログラムされた細胞死のこと。主要な内在性アポトーシス経路としてミトコンドリアを介する経路があり、ここではBcl-2ファミリーたんぱく質が発現の微妙なバランスを保つことで巧妙な細胞死の制御が達成できる。本研究で用いたBcl-xLはこのファミリーに属し、アポトーシス促進Bcl-2ファミリーたんぱく質と結合し、その機能を調節する。また、ミトコンドリアを介さない経路も存在する。

翻訳

mRNAの遺伝情報に基づいて、たんぱく質を合成する反応。リボソームがmRNAに結合し、ペプチド結合生成反応を促進することで、遺伝情報に基づいた目的たんぱく質が作られる。

オフスイッチ

本研究では、標的mRNAで生じるRNAとたんぱく質の相互作用を利用して、mRNAからたんぱく質の発現を翻訳レベルで抑制する(オフにする)。

RNAi(RNA干渉)

細胞内で形成される二本鎖RNAにより、任意の遺伝子の発現を抑制する手法であり、発見者であるアンドリュー・ファイアーとクレイグ・メローはRNAi発見の功績より2006年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。最近では、RNAiを医薬品に応用する研究が進んでいる。

オンスイッチ

本研究では、RNAiを誘導するshRNAで生じるRNAとたんぱく質の相互作用を利用して、細胞内で目的のたんぱく質が発現しているときのみ、RNAiの機構を働かなくさせる仕組みを利用する。すなわち、目的たんぱく質Aが発現しない時は、RNAiの機構が働くのでターゲットmRNAが切断され、そのmRNAからのたんぱく質合成Bはオフになるが、目的たんぱく質Aが発現すると、RNAiの機構が阻害され、ターゲットmRNAが切断されなくなるため、たんぱく質Bの合成は進行する(オンになる。図2参照)。

人工情報変換システム

本研究では、細胞内でのたんぱく質の発現情報(入力)を任意のたんぱく質の出力情報(発現のオン/オフ)に変換することが可能である。例えば、将来的に、がん細胞で発現したマーカーたんぱく質の発現をアポトーシス誘導たんぱく質の発現に変換することで、がん細胞特異的な除去システムの構築や、アルツハイマー病の原因因子の1つであるβアミロイドたんぱく質の発現をアポトーシス抑制たんぱく質の発現に変換することで、神経細胞の過剰な細胞死を予防するシステムの構築などが期待できる。

シンセティックバイオロジー(合成生物学)

生体分子や生命システムを「創る」ことで生命を理解し、新しいテクノロジーを誘発することを目指す学問分野。産業、エネルギー問題解決に向けて既存の生命システムに人工遺伝子回路を組み込み、生物のシグナル伝達経路を制御する研究や、遺伝子や生命システムそのものを設計・合成し、細胞の構築原理の解明に取り組む研究などが国内外で進められている。