多剤排出トランスポーターの機能を分子シミュレーションで初解明 -多剤耐性化のタンパク質AcrBの3つの部分構造が順序良く機能する仮説を実証-

多剤排出トランスポーターの機能を分子シミュレーションで初解明 -多剤耐性化のタンパク質AcrBの3つの部分構造が順序良く機能する仮説を実証-

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用語解説

多剤排出トランスポーター

細胞膜を介して物質を輸送する膜タンパク質を総称してトランスポーターとよび、その中で抗生物質など多くの薬剤を細胞外に排出する機能をもつトランスポーターを多剤排出トランスポーターという。

機能的回転機構

2006年のX線結晶構造解析で得たAcrB3量体の非対称構造をもとに、村上らが提案したAcrBの作動原理を説明するモデル。非対称構造では3量体の各分子は3つの異なる状態をとる。1つ目の分子は薬剤待ちの”取込型”、2つ目の分子は薬剤に結合した”結合型”、3つ目の分子は薬剤排出後の”排出型”とよばれる。薬剤1分子を排出すると3量体の構造状態がちょうど1段階ずつ変化し、1つ目の分子が結合型、2つ目の分子が排出型、3つ目の分子が取込型になると考えた。細胞外側からみると3量体の構造状態が120度回転していることに対応するので機能的回転機構とよばれる。この変化によって薬剤1分子が外側に運ばれる。同じ分子でできた3量体が非対称な構造状態をとる様子はATP合成酵素のF1-ATPaseと類似していることから、F1-ATPaseの作動原理との類推によって考案された。

粗視化分子シミュレーション技法

広義には「もとの問題の重要な側面だけを残してより簡単な表現にする」ことを粗視化というが、ここでは原子レベルによるタンパク質表現から、アミノ酸1個を1粒子として近似する粗視化による分子動力学シミュレーションの技法を表す。

RND型

RND(resistance-nodulation-cell division)スーパーファミリーは、大腸菌、緑膿菌などのグラム陰性菌にみられるトランスポーター群であり、主に、pHの差に起因するプロトン輸送を駆動力としてリガンドを輸送する機能をもつ。

3回対称性

120度、240度、360度回転させて区別がつかない回転対称のこと。