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高出力・高効率の新型半導体光源の開発に成功~深紫外領域(240nm)で、世界最高の出力と効率~

2010年9月27日


左から船戸准教授、川上教授、片岡研究員

 船戸充 工学研究科准教授、川上養一 同教授と片岡研 ウシオ電機研究員の研究グループは、ピーク波長240ナノ・メートル(nm)の深紫外領域において、世界最高の出力と効率(出力100ミリ・ワット(mW)と電力変換効率40%)を可能にする、新型半導体光源の開発に成功しました。この光源は、窒化物半導体の一種である窒化アルミニウム(AlN)と、それにガリウム(Ga)を添加した窒化アルミニウム・ガリウム(AlGaN)を順次積層したAlGaN/AlN量子井戸構造を基礎としています。適切に設計された量子井戸構造を、適切に出力設定された電子線で励起することにより、高出力・高効率が達成されました。

 この成果は、英国科学誌「Nature Photonics(ネイチャー・フォトニクス)」のオンライン速報版で公開されました。

  • 論文名: 100 mW deep-ultraviolet emission from aluminum-nitride-based quantum wells pumped by an electron beam
  • 著者: T. Oto, R.G. Banal. K. Kataoka, M. Funato, and Y. Kawakami

研究の背景

 深紫外光は、水や空気の殺菌消毒、あるいはウェハの露光や液晶パネルの貼り合せなど、エレクトロニクスからバイオテクノロジーまで幅広い応用範囲で利用されています。その光源としては、フッ素系や塩素系のエキシマランプやレーザ、キセノンランプ、水銀ランプなどが主流です。これに対して、環境問題や省エネルギーの観点から、発光ダイオード(LED)レーザダイオード(LD)などに代表される半導体光源による、高効率で高出力、しかも環境負荷の少ない固体材料系による深紫外光源へのニーズが高まっています。

 それを可能とする半導体として最も有望視されているのは、現在、青色LEDやLDの材料としても使用されている窒化物半導体です。窒化物半導体は、材料の組み合わせ組成を変えることで200nm(紫外)~2,000nm(赤外)程度の波長域の光を得ることが理論上は可能です。しかし実際には、後述するいくつかの要因により紫外域(約360nm以下)や、緑色より長波長域(約500nm以上)では、高出力で高効率な発光を得ることは困難でした。

 窒化物半導体から深紫外線発光を得るためには、AlNとGaNの混晶半導体であるAlGaNにおいて、結晶中のアルミニウム(Al)量を増やす必要がありますが、高品質なAlGaN結晶の育成は困難でした。これに対して京都大学では、従来この結晶の作製に取り組み、高品質なAlNやAlGaN/AIN量子井戸構造の作製に成功していました[1]-[3]。また、その光物性の解明により、より効率的に光を取り出す素子構造についての指針を得ていました[4]。

 一方、AlGaNにおいて、アルミニウム組成を増加させると、p型不純物であるマグネシウム(Mg)が、キャリアである正孔を放出するために必要なエネルギーが大きくなるため、p型層の正孔密度が低くなります。そのため、発光層であるAlGaN量子井戸層に正孔を十分に供給することができなくなり、紫外線LEDが青色LEDと比べて発光効率が低い要因となっていました。

 以上の主には二つの原因により、波長300nm以下で発光する紫外LEDの出力および外部量子効率は、それぞれ10mW以下、2~3%程度にとどまっていました。技術開発が非常に進んだ青色LEDの場合、研究室レベルでは80%を超える外部量子効率が実現されているのに対して、紫外LEDが開発の萌芽期にいることがわかります。


研究の成果

 本研究は、高品質なAlGaN/AlN量子井戸が得られているというこれまでの成果に基づき、従来LEDによる発光では欠かせなかったp型層n型層を必要としない方法で、新しい深紫外半導体光源を得ることを目的として実施されました。


図1: AlGaN/AlN量子井戸構造

 素子構造の概略を図1に示します。サファイア基板上に600nmのAlN、さらにその上にAlGaN/AlN量子井戸構造を京都大学独自の技術により積層しました。AlGaN発光層の膜厚は1nm、それをサンドイッチするAlNの膜厚は15nm、これらの積層を8回繰り返した多重量子井戸構造としています。この表面から、電子線を照射すると、照射した電子がサンプルに浸透していきます。浸透した電子は、電子同士や構成原子との衝突によってエネルギーを失うのですが、その際に、量子井戸内に高密度に電子・正孔対が形成され、それが再結合して消滅するときに発光します。発光の波長は、量子井戸のもつエネルギー準位によって決まり、このサンプルに関しては、室温で240nm(5.2eV)程度でした。重要なことは、電子線励起により、p型層、n型層を用いることなく発光が得られることです。このときに、注意しなければならないのは、照射する電子線のエネルギーが弱すぎると、量子井戸層に十分な電子正孔対ができなかったり、あるいは、逆に強すぎると、照射された電子が量子井戸層を突き抜けて、本来必要でないAlN層の発光が観察されてしまったりすることです。つまり、素子の構造と電子線の照射条件を適切に設定することが、高い性能を引き出すために必須です。この設計を、本研究では、モンテ・カルロ・シミュレーションによって行い、シミュレーションと実験のよい一致を得ています。

 電子線励起実験の結果を図2に紹介します。照射する電子線の加速電圧を8 kVとしたときに、照射電流値の関数として、出力(Output power)と電力変換効率(Power efficiency)をプロットしています。図2aに示したように、8kV、45μAで100mWを超える出力が得られ、このときの電力変換効率は約30%です。また、電力変換効率だけに注目すれば、8kV、5μAで40%を超える効率が得られています。従来、紫外LEDで得られていた外部量子効率は、波長250nmで最高でも約5%、より短い波長でより小さい値(例えば、227nmで0.2%)でした。しかも、外部量子効率は、一般に電力変換効率に比べて大きくなりますので、本研究で得られた電力変換効率は、1桁以上の効率の改善を達成したことを意味しています。

 図2bはAlGaN/AlN量子井戸を電子線励起して得られた240nm発光によって蛍光体を励起した様子の写真です。蛍光体は、市販の蛍光灯と同等のものであり、強い白色発光が得られていることがわかります。

    

  1. 図2 a: 出力と電力効率の照射電子線電流依存性。
          b: AlGaN/AlN量子井戸からの紫外線で励起され、光っている蛍光体の様子。

今後の展開

 電子線励起半導体光源は、以上のように、高効率で高出力な新紫外光源として非常に有用であると考えられます。今後、この半導体光源を製品化し、エレクトロニクス分野のほか、公害物質の分解処理、殺菌、排気ガスの浄化、紫外線硬化などさまざまな産業用途に展開することで、低環境負荷社会の実現に貢献していきたいと考えています。

共同研究の役割分担について

 本共同研究は、京都大学での基礎的な成果[1]-[4]に基づき開始されました。電子線励起発光の基礎的な実証実験では京都大学が中心的な役割を果たし、一方、プロトタイプの製品試作に向けた検討をウシオ電機が中心となって行うことで、共通の目標である、新しい深紫外半導体光源の早期実現を目指しています。

参考資料

■これまでの紫外LEDの外部量子効率の報告値

   

  1. 電力変換効率の報告値はほとんどないが,一般に,外部量子効率 > 電力変換効率

参考文献

[1] R.G. Banal, M. Funato, and Y. Kawakami, “Initial nucleation of AlN grown directly on sapphire substrates by metalorganic vapor phase epitaxy”, Appl. Phys. Lett. 92, 241905 (2008).
[2] R.G. Banal, M. Funato, and Y. Kawakami, “Growth characteristics of AlN on sapphire substrates by modified migration enhanced epitaxy”, J. Cryst. Growth, 311, 2834-2836 (2009).
[3] R.G. Banal, M. Funato, and Y. Kawakami, “Characteristic of high Al-content AlGaN/AlN quantum wells fabricated by modified migration enhanced epitaxy”, Phys. Status Solidi c 7, 2111-2114 (2010).
[4] R.G. Banal, M. Funato, and Y. Kawakami, “Optical anisotropy in [0001]-oriented AlxGa1-xN/AlN quantum wells (x > 0.69)”, Phys. Rev. B. 79, 121308(R) (2009).

関連リンク

論文は、以下に掲載されております。

 

  • 朝日新聞(9月27日 7面)、京都新聞(9月27日 26面)、日刊工業新聞(9月27日 24面)、日本経済新聞(9月27日 11面)および読売新聞(9月27日 2面)に掲載されました。