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生体吸収性担体を用いた重症下肢虚血に対する血管新生療法~重症下肢虚血患者に朗報~

2010年9月1日

医学研究科 器官外科学講座 心臓血管外科
再生医科学研究所
医学部附属病院 探索医療センター
同 薬剤部

 医学部附属病院は、従来の内科・外科的治療法では救肢困難であった重症下肢虚血(閉塞性動脈硬化症・バージャー病)に対する生体吸収性担体を用いた血管新生療法の臨床試験を開始します。

 近年、動脈硬化を原因とする下肢の閉塞性動脈硬化症が増加しています。これらは血行改善薬治療、カテーテル治療、外科的バイパス移植術などにより、治癒が可能です。しかし、これらの治療では十分な効果を得ることができず、国内でも毎年数万人の患者さんが下肢を切断せざるを得ないのも事実です。

 そこで新たな治療法として期待されているのが、「血管新生療法」です。血流が途絶えた部分の周辺組織から新しい血管を生じさせたり、側副血行路(主になる血管が詰まった場合に、代役を務める血管)を発達させたりして、血流が途絶えた組織の血流を確保するものです。

 血管新生療法は、血管新生タンパクを用いる「タンパク治療」、血管新生タンパクを発現する遺伝子を用いる「遺伝子治療」、血管新生を促す細胞を移植する「細胞移植治療」があります。しかしながらタンパク治療は全身への大量反復投与が必要であったり、「遺伝子治療」は遺伝子材料の副作用が問題となったり、「細胞移植治療」は細胞を準備する手間やコストが課題となっています。

 この先進医療技術は血管新生タンパクの十分量を必要な期間、必要な部位にのみ局所で徐々に放出(徐放)、作用させることを目的としています。その結果「タンパク治療」の課題であった全身への大量反復投与による副作用を解決します。方法としてはトラフェルミン(塩基性線維芽細胞増殖因子=basic fibroblast growth factor: bFGF)を生理食塩水で溶解し、濾過滅菌後に、本学再生医科学研究所で開発した生体吸収性徐放担体である「ゼラチンハイドロゲル」に含浸させます(bFGF徐放化ゼラチンハイドロゲル)。そして腰椎に麻酔を行った上で、このbFGF徐放化ゼラチンハイドロゲルを1mlずつ虚血下肢の腓腹筋に40カ所(計40mL、bFGFとして計200μg)注射します。「ゼラチンハイドロゲル」の作製は医学部附属病院の薬剤部にて「治験薬の製造管理、品質管理等に関する基準(治験薬GMP)」に準じて行います。

   

  1. 図: ゼラチンハイドロゲルの製造から患者への投与までの流れ

 この方法は遺伝子材料や細胞を使用することなく、極めて簡便・低コストで安全な「血管新生療法」が行えることに大きなメリットがあり、下肢切断をせざるを得ない重症下肢虚血の患者さんでも、下肢切断をしなくてすみ、QOL(生活の質)の改善が期待されます。

 この新たな治療法は2010年7月、生体内吸収性高分子担体を用いた塩基性線維芽細胞増殖因子による血管新生療法として、国が審査して健康保険の併用を認める第3項先進医療(高度医療評価制度)で承認されました。この臨床試験では医学部附属病院心臓血管外科・探索医療センター・薬剤部および再生医科学研究所が中心となって、第3項先進医療という制度下で行い、将来的にはbFGF含浸ゼラチンハイドロゲル細粒の多施設共同治験、保険診療化、あるいは製品化を計画しています。

 

  • 朝日新聞(9月3日 30面)、京都新聞(9月2日 21面)および日本経済新聞(9月2日 38面)に掲載されました。