第1回湯川・朝永奨励賞授賞者を決定しました。

第1回湯川・朝永奨励賞授賞者を決定しました。

前のページに戻る

東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻・特任助教 小早川 高 氏
科学技術振興機構・さきがけ研究者 小早川 令子 氏
業績の要旨等

業績の題目 (和文及び英文)

哺乳類の匂いに対する行動を先天的に決める神経細胞の発見
Identification of Specific Olfactory Neurons which Determine Innate Odor-Induced Behaviors in Mammals

業績の要旨

 これまで、情動や行動などを引き起こす哺乳類の脳の高次機能は非常に複雑なシステムによって成立しているので理解することは極めて困難である、と考えられてきました。しかし、小早川高、小早川令子夫妻は、遺伝子操作の技術を応用して、脳の中から自らが狙った神経細胞のみを除去するという独創的な研究方法を使って、この難問に果敢に挑戦し、解明する新しい道筋を切り開きました。
 小早川夫妻は、匂いに対して情動や行動が引き起こされるメカニズムを解明するために、鼻腔に存在して匂いを感知する嗅細胞の中から、特定の領域に存在するものだけを意図的に除去したミュータントマウスを作り出しました。このミュータントマウスは、天敵の匂いそのものを感知することも、後天的に危険を学習することもできるのに、天敵の匂いを先天的に危険と判断し恐怖を感じることができないという驚くべき行動を示しました。この実験結果から、匂い分子を感知して後天的に関連学習をするための嗅細胞と、匂い分子の持つ意味を読み取って先天的な行動を引き起こす嗅細胞とが別々に存在していることが初めて明らかになりました。
 従来、漠然と匂い情報を評価して行動を引き起こす神経回路は脳の中枢部に存在していると考えられてきました。しかし、小早川夫妻の実験結果は、嗅覚系の神経回路は、末梢の段階で既に領域毎に別々の行動を引き起こす神経経路へと分類できることを示しています。従って、今後、末梢の各領域から始まる神経経路を中枢へ追跡することで、匂いに対する情動や行動を引き起こすメカニズムの解明が飛躍的に進むことが期待されます。小早川夫妻の研究成果はマウスの脳内の神経回路を人為的に改変することで、外界の刺激に対する情動や行動を自在に制御できる可能性を示しているという点でも画期的であると考えられます。小早川夫妻の研究は、今後、哺乳類の行動を引き起こすメカニズムを解明するという次世代の脳研究の分野を強力に牽引すると考えられます。