京大の「実は!」Vol.12 京都大学の「京大農場の実は!」

京大の「実は!」Vol.12 京都大学の「京大農場の実は!」

 京都から大阪方面へ向かう阪急電車に揺られ、高槻市駅へと近づくあたりでふと窓の外を見ると、レンガ色をした屋根の建物とその周りに広がる農場が目に飛び込んできます。そこが「京都大学大学院農学研究科附属農場」、通称「京大農場」です。

 今回は、実りの秋を迎えた、「京大農場の実は!」に迫ります!


収穫の秋まっさかりの京大農場。背景には阪急電車が走る、都心農場ならではのロケーション

京大農場ってこんなところ!

農場の概要


1930年に建築された本館。西欧的な景観を醸し出す。

 農学研究科附属農場(以下、京大農場)は、大正13年農学部の創設にともなって北部キャンパスの農学部構内に開設され、その後変遷を重ねてきました。

 現在の京大農場は、本場(大阪府高槻市)、古曽部温室(大阪府高槻市)、京都農場(北部キャンパス)から成り、80有余年にわたり農学を理解する場として実習教育を行ってきています。また、農学にかかわる基礎から応用までの幅広い研究の場として、教員、大学院生、学部生が技術職員の支援のもと、農業生産の新技術や新規植物の開発に向けて研究を行っています。

大学附属農場としての特徴

 本学の教員を中心に、農業生産の立場から、食・環境・エネルギー問題を解決しつつ、高収量、高品質生産を可能にする新技術や新規植物の開発を目指す植物生産管理学研究室が設けられています。また、この農場で学生は、主要作物の栽培理論の講議と実習、実際の栽培管理体験を通して栽培技術の基本を学んでいます。

 そんな京大農場では、日々の研究だけでなく、子どもたちの体験学習や地域の人に向けた公開講座など、地域社会との関わりを深める様々な取り組みも積極的に行っています。

 その取り組みの一つとして、2012年から一般市民向けに行っている「オープンファーム」をクローズアップしたいと思います。

京大農場オープンファーム2013を体験レポート!

 「京大農場オープンファーム2013」の基本テーマは、「作物生産のサイエンス」。

 今年も11月3日(日曜日)に実施された「オープンファーム」では、公開講座、農場ツアー、農業体験実習、公開ラボ、農場農産物の即売などが行われました。

 そんな、わくわくするイベント満載の一日をレポートします!

【農場ツアー ~水田・蔬菜コース~】

 農場内をめぐるツアーです。水田・蔬菜コースと果樹園コースの2コースで、農場で生産されている作物を見学します。今回は「水田・蔬菜コース」をレポートします。ツアーガイドは、農学研究科附属農場技術職員で蔬菜班の岸田史生さんと、同じく水田班の奈良伸さんです。

 スタッフの事前説明の後、まずはイチゴのハウスからツアースタートです。
露地栽培では、4~6月にかけて収穫されますが、ハウス栽培では、長日処理(人工照明で日の長さを長くする)と加温によって、11~4月にかけて収穫することができます。本農場では、主に「さがほのか」と「さちのか」を栽培。その他にも、昔からある古い品種の維持や新しい品種の育成を行っています。


(左)参加者が集合して、奈良さんの事前説明からスタート。(中央)温かいイチゴハウスの中。黄色い札のようなものは、虫取り用の粘着テープ。黄色は、虫が好んで集まりやすい色だそう。(右)ふかふかの肥料が積み上げられています。

 続いて、トマトのハウスへ。
ここでは冬季の無暖房栽培に取り組んでいます。普通種のトマトは、低温による受精障害を回避するために暖房が必要ですが、京大で育成した「単為結果性品種」のトマト「京てまり」は、受精しなくても果実が肥大するため、冬季の無暖房栽培が可能です。この「京てまり」は京都市の新京野菜にも指定されています。

 そして、アスパラガスの栽培スポットへ。
京大農場では、約50年前からアスパラガスの栽培に取り組んでいます。ハウス栽培では3~4月、露地栽培では4~5月に収穫することができます。定植した苗は約10~15年間、毎年継続して収穫が可能。夏から秋にかけて茎葉を生長させ、翌年の生産に必要な養分を蓄えます。


(左)トマトハウスの中。つり下がった紐は、成長したトマトを絡ませていくためのもの。(中央)アスパラには雄株と雌株があり、実がついているのが雌株だそう。(右)たくさんの種類の唐辛子が栽培されている畑も。辛くない甘い唐辛子も栽培中だとか。まん丸唐辛子など、見るからに珍しい形のものもあります。

 続いてイネの栽培スポット。
約3haの水田でイネ・コムギ・ダイズなどを栽培、研究しています。生産用に栽培しているイネ品種は「ヒノヒカリ」。本農場では「低資源投入(低肥料・低農薬)栽培に取り組んでいます。

 最後に、珍しいダイショの紹介。
ダイショは、ナガイモと近縁のヤマノイモ属植物です。熱帯原産の作物ですが、保温した施設内で苗作りを行い、初夏に苗を定植することで、高槻でも十分生産出来るようになりました。粘りが強く品質良好。12月上旬の収穫を予定しています。

 
(左)「イネの葉っぱは何枚?」など、子どもたちからの質問にもスタッフが笑顔で回答。(中央)「ダイショはこんなお芋です」(右)参加者の男の子が農場の花で作った指輪をもらったスタッフ。ほほえましい触れあいもツアーの醍醐味。

【農業体験実習 ~イネの収穫体験~】

 このプログラムでは、イネ刈りの体験をします。刈り取るだけでなく、刈り取ったイネを束ねたり、干したりも体験できます。また、スタッフが操作する農業機械の見学もあります。指導してくれたのは、桂圭祐 農学研究科助教、技術職員の加賀田恒さん、若原浩義さんとラボの院生、学生さんです。


(左)まさに収穫時の金色の稲穂。(中央)スタッフによる事前説明を真剣に聞く参加者。(右)この鍬を使ってイネを刈ります。


(左)ひとりでがんばれるかな?(中央)親子で一緒に、一生懸命刈り取ります。(右)慣れ始めると楽しくて無我夢中に。


(左)イネを束にするのも意外と難しい!(中央)みんなで一緒に干しましょう。(右)重いイネの束を持ち上げるのは大変!


(左)バインダー(中央)コンバイン(右)こうして出来るお米が「ひのひかり」。作り手の苦労に感謝しながら、大切に食べないと!

 実際に体験することで、お米のありがたさが分かった!と参加者のみなさん。

 体験をとおして、食べ物への感謝の気持ちを学ぶことも、このプログラムの目的なのです。

【農産物などの即売】


(左)毎年人気の即売には、販売開始前から長蛇の列が!(中央)愛情たっぷりの新鮮な作物たち。(右)聖護院大根も大きくて、みずみずしい!

【公開講座】

 今回は、以下の3講座を実施しました。

  1. 「ソバの栽培と特性について」
    田中朋之 農学研究科(作物学)准教授  
  2. 「花の模様形成のメカニズム」
    細川宗孝 農学研究科(蔬菜花卉園芸学)准教授  
  3. 「カンキツの多様性と類縁関係 -日本のカンキツのルーツを探る-」
    北島宣 農学研究科(附属農場)教授  

【公開ラボ ~渋柿の渋抜き~】

 柿の渋さの原因は? 渋さを失うメカニズムの解説とアルコールを用いた柿の渋抜き体験を行います。


(左)河井崇 農学研究科助教によるカキの脱渋に関する講義。(中央)ラボのスタッフがお手伝いします。(右)参加者に配られる、甘柿と渋柿


(左)それぞれの柿の断面を試験紙に押しつけると、渋柿のほうは渋み成分タンニンに反応して色が黒く変化します。(中央)渋抜きの工程は、まず箱を組み立てるところから!(右)箱詰めした柿に、アルコールを噴霧

 その他、トウガラシの辛味を比べる公開ラボも行われました。

【その他(パネル展示、器具の展示)】

 会場では、その他、農場紹介・研究紹介のパネル展示や、実験機器の展示・デモンストレーションなども行われました。


(左)パネル展示の様子。(中央)スタッフによる、実験機器のデモンストレーション。(右)様々な実験機器を展示

 学ぶ楽しさ、触れる驚き、そんなわくわくした体験もりだくさんのオープンファームでした。

 京大農場は、いわば研究のフィールドワークの場。そしてここで生まれる農産物のすべてが、研究成果の賜物です。

 研究者一人一人の思いと、自然の恩恵が溶け合った貴重な成果を、地域のみなさんと共に分かち合い、共に喜ぶ。そんな「実は!」な魅力が農場にはありました。

京大農場では、その他にもこんなさまざまな地域社会との取り組みを行っています!

    • 公開講座
      毎年秋季に開催し、農場教員や農学研究科教員が、それぞれの専門分野の研究紹介やトピックスについて講演します。
    • 生産物の販売
      農場で生産された生産物を一部住民に販売しています。
    • 高槻市との連携
      高槻市において各種講座を開催するとともに、食育フェアへの出展なども行っており、高槻市民の学びの場として活用されています。また、中学生の職業体験学習や、小学生の農場見学会などを受け入れており、農業を学ぶ場も提供しています。
    • 一般市民・団体の農場体験実習
      モモの収穫実習、ブドウの収穫実習、カキの渋抜き実習、果樹の剪定実習などを行い、栽培体験の場を提供しています。
    • 私立学校・専門学校の教育支援
      専門学校の研修生を受け入れており、それぞれの作物について栽培技術の研修を行っています。また、私立学校初等部児童の自然とふれあう学習の場として提供しており、様々な教育の支援につながっています。
    • 企業との連携・協力
      • 「農産物の活用に関する提携」: 京都ブライトンホテルと農産物の活用に関する提携を結び、農場で収穫した希少なイチゴ品種「愛ベリー」を提供するなど、農場で生産する希少で新鮮・安全な食材をもとに新たな商品開発へとつなげています。
      • 京都大学・早稲田大学・黄桜株式会社による共同開発のビール系飲料」: 農学研究科栽培植物起源学研究室が更新保存していた、古代エジプトでビール醸造に使用されていた幻の「エンマーコムギ」などの種子を原料とするビール系飲料(ホワイトナイル(写真左)、ブルーナイル、ルビーナイル(写真右)、サイファーナイル(ノンアルコール))が、3者の共同開発により誕生しました。現在、農場では原料の「エンマ―コムギ」と「ピラミダーレコムギ」を維持栽培しており、種子を黄桜に提供しています。
      • 「高槻農場のブドウ巨峰を使ったスパークリングワイン」: 農学研究科の小田滋晃教授と研究室のスタッフが、研究成果である「バーチャル・ワイナリー」のスキームに基づき、京大生協とともに企画し、農場で生産した巨峰を原料の一部に用いてスパークリングワインを開発しました。

農場の移転について

 2012年7月30日、京都大学、高槻市、都市再生機構西日本支社の3者間において、現在、高槻市内にある「京都大学大学院農学研究科附属農場」を、木津川市内の「木津中央地区」(関西文化学術研究都市)へ移転することに合意が得られました。今後は、来年度から、教育研究への影響に十分配慮しながら、順次移転していくこととしています。

経緯・目的

 大学院農学研究科附属農場(高槻農場)については、地下に弥生時代の環濠集落遺跡(安満遺跡)の存在が判明しており、遺跡保護の観点から様々な制約があることにより、老朽狭隘の解消、現在の農学の教育研究に求められる機能向上に対応した施設等の改修が十分にできない状況にありました。

  そのような中で、地元高槻市から遺跡の保存等を目的とした公園整備のため、高槻農場の取得要請があり、他方、都市再生機構から移転候補地として木津中央地区の提案を受けました。

  本学は、木津中央地区は農場として十分利用可能であること、また、関西文化学術研究都市に位置し、近隣の大学・研究機関との共同利用・共同研究が可能であることから、移転候補地として適切と判断し、2009年9月28日、高槻市、都市再生機構と移転することに大枠で合意し、その後、3者で移転時期等について協議を行い、2012年7月30日、基本協定を締結しました。

 農場移転の実現によって、長年の懸案であった施設設備の老朽狭隘解消等を行い、農作物生産技術に関する学生実習などの教育機能、農業技術開発などの研究機能の向上を図るとともに、学研都市をはじめ京阪奈地区に所在する大学・研究機関との共同利用・共同研究などを通じて、日本の農学研究の更なる発展に寄与していきます。

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