孤発性小血管性認知症の発症機序の一部を解明 -認知症の治療に向けての新たなアプローチ、マウスで効果を確認-

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上村麻衣子 医学研究科特定研究員、眞木崇州 同助教、梶誠兒 同博士課程学生らの研究グループは、慢性脳低灌流などで発症する小血管性認知症の患者7名と、認知症ではない同年代の6名の脳内を解析し、脳の血管内で骨形成蛋白質4(bone morphogenetic protein 4:以下、BMP4)と呼ばれる分子が、通常よりも多く発現していることを発見しました。

本研究成果は、2017年6月1日午前1時に国際神経病理学会の学術誌「Brain Pathology」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、眞木助教、上村特定研究員、梶博士課程学生

孤発性の小血管性認知症では、高血圧や糖尿病などによる細い血管の動脈硬化によって血流が滞り、慢性低灌流に弱いとされる脳内の白質が障害され、認知機能の低下につながります。この疾患に対して、今までは、生活習慣の改善やリスク因子の管理、血流改善の薬などによる予防的なアプローチしかありませんでした。今回の研究は、慢性低灌流後の白質障害が起こるメカニズムに迫ったものであり、今まで予防的なアプローチしかなかった小血管性認知症に対する(初期段階での)治療介入の可能性が生じたという点において、意義深いと考えております。将来的には、小血管性認知症や、血管障害を合併するアルツハイマー病の治療法開発などへ繋げていきたいと考えています。

概要

「認知症」は最も大きな社会問題となっている疾患の一つです。「血管性認知症」は脳卒中や脳の循環不全が原因となって起こり、全体の患者数の約20%を占め、アルツハイマー病に次いで2番目に多い認知症です。さらに、65歳未満の現役世代では、認知症の40%以上を占める筆頭原因です。また、アルツハイマー病の病態を悪化させる因子としても知られています。

本研究グループは、小血管性認知症の患者7名(男性4名、女性3名)と、同年代で認知症ではないコントロール群6名(男女各3名)の脳内を解析し、脳の血管内でBMP4が、通常よりも多く発現していることを発見しました。また、細胞実験と動物実験を行い、脳に届く血液の量が減少すると、脳血管の細胞からBMP4が多く分泌され、脳の障害および認知機能の低下につながる可能性があることを見出しました。脳の血液量を減少させたマウスに、BMP4の作用を抑える薬を投与すると、この脳の障害を改善させることができました。

図:動脈硬化などで、脳の血管が詰まることにより、脳組織に十分な血液が供給されない脳虚血状態で、BMP4は血管新生を促すために脳血管から産生される。しかし、虚血状態が長期間続くと、髄鞘(神経細胞から伸びる「軸索」と呼ばれる部分を取り囲み、「神経線維」を構成する部分)を作り出す細胞オリゴデンドロサイトが減少し、アストロサイトが増えて脳組織が瘢痕化(死んだ神経細胞などが線維成分に置き換わり、傷跡として残る過程)する。これらの現象は、小血管性認知症における認知機能低下の原因となり得る。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1111/bpa.12523

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/225117

Maiko T. Uemura, Masafumi Ihara, Takakuni Maki, Takayuki Nakagomi, Seiji Kaji, Kengo Uemura, Tomohiro Matsuyama, Raj N. Kalaria, Ayae Kinoshita, Ryosuke Takahashi (2017). Pericyte-derived bone morphogenetic protein 4 underlies white matter damage after chronic hypoperfusion. Brain Pathology, 28(4), 521-535.

  • 朝日新聞(6月1日 8面)、京都新聞(6月1日 23面)、産経新聞(6月1日 23面)、毎日新聞(6月1日 24面)および時事通信(6月1日)に掲載されました。