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ニュースリリース

ポリフェノールを高機能化するプレニル化遺伝子の発見
2008年3月14日


  矢崎 一史 生存圏研究所教授らの研究グループは、ポリフェノールの抗腫瘍活性や抗菌活性などの生理活性を飛躍的に高めるプレニル化酵素の遺伝子を世界で初めて見いだすことに成功しました。これにより、将来的には安定な量のプレニル化ポリフェノールの供給が可能になると見込まれます
 この研究成果は、米国の「プラント・フィジオロジー(Plant Physiology)」 3月号に掲載されます。

1.概要
  植物ポリフェノールは、ワインやお茶等に多く含まれ、抗酸化作用、抗菌作用を持つことから、身体に良いと一般的に認識が広まっている。しかし、もっと活性の強いポリフェノール類が薬用植物で多く見いだされており、それらにはプレニル基と言う「ヒゲ」のような修飾を受けたものが多い。プレニル基とは炭素数5個からなる構造単位の総称で、炭素数5のものをジメチルアリル基、10のものをゲラニル基等と呼び、これが例えば40までつながったものがカロチノイドである。
  ポリフェノールにこのプレニル基の「ヒゲ」がつくと、元々のポリフェノールでは非常に弱かった活性が、飛躍的に強くなることが昔から経験的に知られていた。その様々な活性には、 抗腫瘍活性抗菌活性抗ウイルス活性抗酸化活性等の他に女性ホルモン様活性免疫増強活性抗炎症活性血管増強活性があり、その活性のバラエティーは極めて多岐に及ぶ。その多様性は、プレニル基のつく位置や長さ、また母核化合物の違いにより生まれる。このような化合物は生薬学、薬用植物学の分野ではよく研究され、おおまかに千種類を超す化合物がこれまで生理活性成分として研究されてきた。例えば、健康食品のプロポリスの活性本体もプレニル化ポリフェノールである。
  しかしながら、これら天然医薬品であるプレニル化ポリフェノールを植物内で作る酵素、即ちポリフェノールにプレニル基を付加する酵素遺伝子は、30年に及ぶ長い研究にも関わらず、これまで全く未知とされてきた。それを、今回我々の研究室において世界で初めて見いだすことに成功した。

 使った材料はクララと言うマメ科植物でプレニル化ポリフェノールを多量に生産する薬用植物である。我々は、発現してくる遺伝子(EST)の網羅的解析とコンピュータによる候補の絞り込み、さらに酵母を用いたスクリーニング系を組み合わせて、フラボノイドのナリンゲニンの8位を特異的にプレニル化する遺伝子、N8DTをクローニングすることに成功した。この成果は米国の「Plant Physiology」の3月号に掲載予定である。
 ナリンゲニンはフラボノイドであることから抗酸化作用はあるが、その他の活性は強くない。ところが、8-プレニルナリンゲニンとなるとエストロジェン活性(ダイズイソフラボン等で有名な女性ホルモン様作用)が飛躍的に上昇する。このプレニル化ポリフェノールはホップの成分としてもしられ、エストロジェン活性は植物界最強を誇る。このことはつまり、今回得た遺伝子1つで、単純なポリフェノールを簡単に高付加価値の化合物に変換することが可能であることを意味している。特に今回のプレニル化酵素遺伝子N8DTは、ナリンゲニンに特異的で本来の基質をプレニル化する二次代謝酵素として世界で初めてものであり、医薬品、食品、醸造等、様々な分野に大きなインパクトを与えるものである。

2.展望と波及効果
 今回、フラボノイドプレニル化酵素がどのようなタンパク質であるかを示すことができたため、この遺伝子配列の情報を使うことで、千種を超える多様な生理活性を持つポリフェノール類のプレニル化酵素の研究が、今後世界で一気に進むものと予想される。これまでプレニル化化合物の同定はできていても、存在量が少ないため薬理活性の研究などは十分に行われなかった。この遺伝子が得られたことで、将来的には微生物発酵や、植物バイオテクノロジーの応用により、安定な量のプレニル化ポリフェノールの供給が可能になると見込まれ、機能性食品サプリメントとして、あるいは化粧品医薬品原料等として、市場ニーズに応える応用研究が展開すると期待される。
(後者の組換え植物を用いた高付加価値の成分の生産技術開発に関しては、経済産業省のPFプロジェクトにおいても試験的に応用されている。)


          
クララ培養細胞

クララ植物

クララの根(薬用部)


  • N8DTの遺伝子配列は、その他1万個のESTクローン情報とともに、「生存圏データベース」植物遺伝子データベース
     http://database.rish.kyoto-u.ac.jp/arch/plantdb/index.html
    で公開中。
  • 他のプレニル化ポリフェノールを含む植物に、健康食品とされるアシタバ、クワ、ホップ、甘草、ミカン、マンゴスチンなどがあり、セリ科、クワ科、マメ科、ミカン科、オトギリソウ科に多い。インゲンやダイズなどの豆類は、病原菌に攻撃されたときにプレニル化ポリフェノールを作って自らを守る。
  • クララの培養細胞は、東洋大、山本浩文教授からの提供による。
  • コンピュータによる絞込みはタカラバイオのご協力による。
  • 主な実験は矢崎研の大学院生、佐々木佳菜子による。
  • 当遺伝子配列は、京都大学より特許出願中。
  • 研究費は日本学術振興会の科学研究費などによる。

N8DTタンパク質の予想構造


 朝日新聞(3月21日夕刊 17面)、京都新聞(3月15日 30面)、産経新聞(3月15日 3面)、日刊工業新聞(3月17日 30面)、日本経済新聞(4月4日 15面)及び毎日新聞(3月15日 3面)に掲載されました。