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ニュースリリース

意義ある教員免許更新制に−アンケート・聞き取り調査等を通じての一考察−
2008年3月6日



高見 茂教授(左)と佐藤 利幸氏(右)
 佐藤 利幸 教育学研究科研究生(静岡県立浜北西高等学校教諭)は、2009年4月より導入されることとなった教員免許更新制について、政策立案者である文部科学省、免許管理者である教育委員会、講習開設者である大学、受講対象者の教員(高校教員に限定)、教員免許取得予定者の大学生に対して様々な角度からアンケート・聞き取り調査を実施し、更新制が形骸化せずに教員のやる気やモチベーションを高めるような意義あるシステムとして確立するために、特に免許状更新講習の在り方について考察し、研究成果としてまとめました。


概要
 2009年4月よりついに導入されることとなった教員免許更新制をあくまでも前向きに捉え、政策立案者である文部科学省、免許管理者である教育委員会、講習開設者である大学、受講対象者の教員(高校教員に限定)、教員免許取得予定者の大学生に対して様々な角度からアンケート・聞き取り調査を行った。そして調査結果等を踏まえ、更新制が形骸化せずに教員のやる気やモチベーションを高めるような意義あるシステムとして確立するために、特に免許状更新講習の在り方について考察することを目的として研究・調査を行った。

 教育委員会・文部科学省・大学に対する調査結果からは次のような課題が挙げられる。1つ目は、教育委員会に対するアンケート調査において「免許管理体制の整備」が導入に向けての課題として示されたが、果たして全国的な免許管理システム構築が原簿情報のデータ化・突合作業等の漏れもなく完璧に行われるのか、ということである。2つ目は、制度の理解のための周知活動には文部科学省との連携の上で都道府県、市町村教育委員会レベルで早急に取り掛かる必要があるのではないか、ということである。そして3つ目は、免許状更新講習について、修了認定に関する見解にズレが生じないように、又講習内容は大学、教育委員会それぞれの特色が生かせるように三者間の意志の疎通を図ることが不可欠である、ということである。

 高校教員・大学生に対するアンケート調査は、昨年10月〜11月にかけて実施した。高校教員は26道府県67校から様々な課程・学科・学校規模の教員(管理職・講師含む)計1643名分、大学生は教員養成系2大学を含む関西の5大学から491名分の回答が得られた(アンケート全体集計結果)。そして集計結果の分析を行うことにより、注目すべき課題がいくつか浮上してきた。まず高校教員へのアンケート分析結果からは、年齢とともに失職等の不安傾向は下がっているにもかかわらず、40歳代の学校の中核をなす教員が最も反対傾向が強いことが判明した。又、管理職(校長・副校長・教頭)の50%が更新制に反対の立場であること、失職等の不安が全く無い教員にも政策に対する不信感から強く反対している者がかなり(31.2%)存在すること、更に高校ごとによって賛否の割合に大きな差があることが明らかになった。これは、何らかの手立てを講じないと学校単位での制度の周知にも大きな差が生じる可能性があることを示している。次に大学生へのアンケート分析結果からは、教員になる意志が未定である者に、不安傾向、反対傾向がともに強いことが判明した。学生の段階で不安や反対の気持ちが強ければ、当然最終的に自分の就職先として教員の道を選択しない可能性が高くなる。つまりこの結果は、「更新制導入により、教員志望者の減少に拍車が掛かる」という懸念が現実になることを示しているのである。更に、重回帰分析(ある被説明変数が2つ以上の説明変数によりどの程度影響されるのかを分析する手法)により、高校教員・大学生ともに講習の費用負担率が賛否に関わる大きな問題であることも明らかになった。文部科学省が今後どれだけ負担軽減のための予算を確保できるかは、導入を進めていく上で必ず重要なポイントになるであろう。

 ここで、多くの課題があるにもかかわらず、更新制を導入することについて、文部科学省は「課題は想定できたが敢えて導入する必要があった」と仮定してみる。すると、更新制導入の別の狙い、政略(political tactics)として次のことが推察できる。それは、2020年以降再びやってくることが予想される教員採用減の時に、「教員養成6年制(修士課程)」へ移行しようと考えているのではないか、ということである。理由は、2006年の答申において更新制導入と教職大学院創設が同時期に検討・提言されたことから、最初の教職大学院修了生に授与された教員免許状の有効期間が満了となる2020年3月31日が教職大学院修了生=教員養成6年制の有効性が実証される最適のタイミングとなったこと、今後の教員志望者減少の中でも、養成される教員の質の確保・向上を図り、確実に即戦力となる教員を世に送り出すためには教員養成を6年制にする必要がある、ということが挙げられる。

 私は大学における免許状更新講習にバウチャー制度を導入することを提案したい。その形態は「広義のバウチャー」とも呼ばれる、受講者の数に応じた予算を国が補助金として配分する方法が適当だと思われる。理由は次の3つである。
 1受講者のニーズを満たす講習の開設並びに講習の質の確保
 2講習開設の中心となる課程認定大学の活性化と国民からの信頼獲得
 3バウチャー制度による「市場原理、競争原理の導入」を予算獲得のための論拠にすることが可能

  最後に、教員免許更新制が意義あるシステムとして確立するために重要な、免許状更新講習における5つのkeywordを提示する。1つ目は「内容(質)」である。文部科学省は講習の内容・質は更新制の成否を握る重要な鍵であることを強調しており、資質能力向上のための研修の必要性は誰もが認めている。受講者のニーズを満たすためにも講習には実験的、体験的、事例的内容を多く取り入れ、質の確保のためにも評価結果の公表は厳密に行うべきである。2つ目は「費用」である。高校教員・大学生へのアンケート結果では、望まし自己負担率はそれぞれ14.7%、19.1%であった。よって、費用負担率が更新制の賛否に与える影響の大きさからも自己負担率は20%以下に抑えるべきである。3つ目は「選択」である。講習を自由に選択できることにより受講者の主体性が強くなるほどモチベーションは高まり、講習の効果は上がるのである。4つ目は「交流」である。様々な校種の教員同士が交流を図り、刺激しあい、それぞれの情報交換をする場としても免許状更新講習は大いに役立つ。一方、講習は、大学生が現職教員との交流を図り、将来教員を目指す上での様々な情報を吸収する機会にもできるはずである。そのためにも、私は免許状更新講習を大学の教職課程(特に「教職実践演習」)への単位の読み替え、又は授業の一部代替にすることが可能になる制度を是非とも実現してもらいたい。そして5つ目は「支援」である。講習は不適格教員の「排除」のために行われるのではなく、受講者に以後の10年間、自信と誇りを持って教壇に立ってもらうための「支援」をするものであるべきだ。そして、このことはもっと前面に打ち出すべきである。この「支援」には、国による講習費用負担軽減における支援、受講者数が少ない講習や僻地での講習開講に対する財政的支援なども含まれる。「支援」により、受講者にとって講習は意義あるものとなるのである。


 京都新聞(3月7日 29面)、産経新聞(3月27日 26面)及び毎日新聞(3月22日 25面)に掲載されました。