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ニュースリリース

京都大学と日亜化学、蛍光体フリー多色LEDの開発に成功:白色を含む多彩な発光色の実現
2008年1月17日



左より、川上 養一教授、船戸 充准教授
 工学研究科の川上 養一教授、船戸 充准教授らの研究グループは、日亜化学工業と共同で、蛍光体を使わずに白色を含む多彩な発光色の実現に世界に先駆けて成功し、この研究成果が、我が国科学誌「Applied Physics Express (APEX) 」創刊号(1月25日刊行)に掲載されることになりました。


【研究成果の概要】

 京都大学と日亜化学工業の研究グループは、結晶再成長により形成したGaN(窒化ガリウム)マイクロ構造を利用したLED(発光ダイオード)を作製し、蛍光体フリーで白色を含む多彩な発光色の実現に世界に先駆けて成功した。参照図1にLEDの構造の概略と白色発光している写真を示した。AやBで示した一つの構造の大きさは横幅が5から15マイクロメートルであり、一つのLEDの中に多数のストライプが含まれることになる。発光層はInGaN多重量子井戸であり、有機金属気相成長法(MOVPE)によって作製した。

  一般のLEDは原理的には単色光源であり、白色を出すためには蛍光体が使われる方法が主流である。それに対して今回開発したLEDの特徴は、
  • 蛍光体を使っていないこと
  • 白色だけでなく、パステルカラーなど多彩な多色発光を呈すること
  • 高い発光効率が期待できること
であり、高品位な固体照明光源として有望であることが示された。この成果は、応用物理分野では世界的に権威のある学術誌の一つJapanese Journal of Applied Physics (Letter)の後継誌として2008年1月に創刊されるApplied Physics Expressの創刊号に掲載される (参考文献[1])。

参照図1:マイクロファセットLED構造の概略と白色発光の様子を示した写真


バックグラウンド
  LEDをはじめとする半導体(固体)発光素子は、小型堅牢、長寿命、高効率といった特長を持っており、封じきったガスを用いる従来の発光素子、例えば、蛍光灯や白熱ランプの置き換えが進行しつつある。この状況は、真空管がトランジスタに置き換えられた状況になぞらえ、照明革命とも言われている。半導体発光素子の発光色を決めているのは、通常、量子井戸発光層の禁制帯幅であり、材料や量子井戸構造を決めたときにある単一の色に決まるものである。つまり、発光色は原理的に単色光とならざるをえず、色純度の高い鮮やかな色となる。一方、白色光は、青と緑と赤、青と黄、緑と赤、など補色の関係にある発光色を混ぜることで得られる。現行の白色LEDはこの原理を利用しており、窒化物半導体青色LEDで黄色YAG蛍光体を励起し、それら青と黄色発光を混ぜることで白色を得ている。高出力青色LEDと高効率な蛍光体を利用するため、最近では、発光効率は蛍光灯をはるかに凌駕する150 lm/Wを超える白色LEDの報告もなされ (参考文献[2])、固体照明光源の中心的役割を果たすことに疑問の余地は少ない。


参照図2:異なる照明下で撮影した同一のりんご
   照明における光源スペクトルの重要性を、参照図2を用いて説明する。ここでは、同じ果物を異なる照明の下で撮影しているのだが、物体の見た目の色(物体色)が異なっている。これは、それぞれの照明の光源スペクトルが異なることが原因であり、逆に、所望の物体色を得るためには、光源スペクトルをそれにあわせて合成する必要があることを示している。このように目的に応じてスペクトル合成された光源、しかも究極の効率を持った光源を、われわれはテイラーメイド光源と呼んでおり、より高品位な固体照明の基盤技術となると考えている。参考図2では、テイラーメイド光源の応用として果実の展示を想定した例を示したが、その他にも、一般照明はもとより、医療(病変部と健常部、動脈と静脈の微妙な色合いの見極め)、バイオ(分子のラベリング)など、幅広い分野への応用が期待される。

  さて、そのような目的に対して、現行の白色LEDはいくつかの問題を含んでいる。例えば、(a) 青色LEDの発光を蛍光体で黄色に変換するために、ストークス損と呼ばれるエネルギー損失が避けられないこと、(b) 蛍光体の発光の多くは、広い波長域に渡るブロードな発光であるため発光色の微調整が難しいこと、(c) 蛍光体の吸収が青色LEDの発光色に一致し、かつ発光が所望の色でなければならないという条件のためスペクトル合成に制約があること、などを指摘することができる。これらの解決を図るには、蛍光体フリーのLEDが望ましいが、一方で、例えばRGB三原色のLEDを用いる方法は、駆動回路が3系統必要であり集積化にも限界がある。また、量子井戸をスタックした構造は、各量子井戸が電気的に直列接続されているため各量子井戸からの相対発光強度を制御するのが困難である。


今回の成果のポイント
  これに対して京都大学(船戸 充 准教授、川上 養一 教授ら)と日亜化学工業(成川 幸男 主任研究員、向井 孝志 窒化物半導体研究所所長)のグループは、窒化物半導体から任意の発光色を得ることを目的とし、GaNのマイクロ構造を利用した多色発光LEDの作製に成功した(参照図1)。 GaNマイクロ構造は、有機金属気相成長法を利用した結晶再成長によって得ることができ、通常、ファセットと呼ばれるいくつかの結晶面で囲まれる。具体的には、参照図1に示したように(0001)面、(11-22)面が現れることが多い。今回試作したLEDは、n型GaNマイクロファセット構造上のInGaN/GaN量子ナノ構造(発光層)、p型GaNキャップ層で構成されており、各ファセット上の量子井戸発光層が電気的に並列接続されていることが特徴となっている。このとき、発光層のInGaN膜厚や組成がファセットに依存するため、各ファセット量子井戸から異なる発光色が得られる。この多色発光を加色混和することにより、さまざまな発光色を実現しようというのが基本的なアイディアである。

  これまでは、構造の作製と光励起による基礎光物性の評価を行っており、(11-22)面上InGaN量子井戸からの高効率発光 (参考文献[3])や白色など多波長発光を得ることに成功している (参考文献[4])。これらの成果は、米国材料学会でBest paper賞を受賞し、ネイチャー誌でResearch Highlights として紹介(参考文献[5])された。また(11-22)ファセット量子井戸での高効率発光に着想を得て作製したGaN(11-22)基板上のLEDは、論文発表 (参考文献[6])後、多くの関心を呼び、報道各誌への掲載、学会への招待講演などに加え、2007年度には応用物理学会論文賞を受賞した。今回はこれらをベースに、p型GaNの形成条件および電極形成プロセスの最適化を図ることにより、初めて電流注入で動作するLEDの試作に成功した。

  具体的な成果をいくつか紹介する。上述のように発光色はファセットに依存し、しかもファセット構造は再成長に用いるSiO2マスクの構造に依存する。そこで、発光色の制御性を高めるために参照図1におけるAおよびBの構造を一つのLEDチップの中にある比で混在させた。つまり、結晶の成長条件だけではなく、この混在比によっても発光色を制御できるようになると考えた。実際、成長条件と構造の混在比を適当に決めることにより、AおよびBの(11-22)面LEDから青色、Bの(0001)面LEDから黄色、Aの(0001)面LEDから赤色発光を得ることに成功し、これらの加色混和の結果、参照図1の写真に発光の様子を示した白色発光を得た。色温度は、4000Kから20000K程度まで変化させることが可能であった。通常の蛍光灯の色温度の範囲である3000Kから6500Kや、従来の白色LEDの典型値5500Kをほぼカバーすることができる。

参照図3:構造混在比による発光色の変化.右上は,従来の単色LEDの発光色を同じ色座標上にプロットしたもの
   また、AおよびB構造の混在効果を色座標上にプロットしたものが参照図3である。右上の図は、従来の赤、青、緑色LEDの色座標表示であり、単色であるために、その発光色は色座標の周辺部に限られている。一方、マイクロファセットLEDの場合は、Aのみの場合の青とBのみの場合の緑が混在して中間色が実現され、プロットが色座標内部に移動する。すなわち、単色だけではなく、淡い色合いのLEDも窒化物半導体だけで表現できることが実証された。
  その他、マイクロ構造ゆえに、発光層で発光した光をLED外部に容易に取り出せることもシミュレーションによりわかってきており、結局、マイクロファセットLEDは次のような有意な点をもっているとまとめることができる。
  • 蛍光体フリーである(そのため、色変換に起因するエネルギー損失がない)
  • 白色を含む多彩な発光色が実現可能
  • これまでに高効率発光を実証してきた(11-22)面を利用しているため、発光のさらなる高効率化が期待できる
  • 外部への光の取出しが容易であり、これも発光効率の向上につながる
以上のように、試作したLEDは高い発光色の制御性、高効率発光の可能性を持っており、より高品位な、究極の効率を持ったテイラーメイド光源として有望である。


  本研究の一部は、文部科学省知的クラスター創成事業 京都ナノテク事業創成クラスター(本部長 堀場雅夫 中核機関:財団法人京都高度技術研究所)から研究テーマ「ナノ・マイクロ構造制御による新機能光デバイス・光計測技術の開発 超高効率LEDの開発」の一環として支援を受けて実施されたものである。


 朝日新聞(1月21日夕刊 13面)、京都新聞(1月17日夕刊 8面、1月22日 27面)、産経新聞(1月17日夕刊 1面)、日刊工業新聞(1月18日 25面)、日本経済新聞(1月17日夕刊 1面)及び毎日新聞(1月17日夕刊 14面)に掲載されました。