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禁断の果実を分け合うチンパンジー
2007年9月12日

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松沢 哲郎 霊長類研究所教授、キムバリー・ホッキングス スターリング大学研究員、大橋 岳 霊長類研究所教務補佐員などからなる研究チームは、野生チンパンジーが、取ってきたパパヤの実を「贈り物」に使うことを明らかにしました。
なお、この論文は9月12日(水曜日)の科学誌「PLoS ONE(プロスワン)」オンライン版に掲載されます。
タイトル:禁断の果実を分け合うチンパンジー
原題:Chimpanzee share forbidden fruit
記載雑誌:PLoS ONE 「プロスワン」、9月12日号、
プロスワンは、ネイチャーやサイエンスにつぐインパクトをもった権威のある科学雑誌でインターネット上で公開されている、という特徴をもっています。
http://www.plosone.org/home.action
著者:7人、日英米葡の4か国の国際チーム
キムバリー・ホッキングス、英国、スターリング大学、研究員
タチアナ・ハムル、米国、ウィスコンシン大学、研究員
ジェームズ・アンダーソン、英国、スターリング大学、教授
ドラ・ビロ、英国、オックスフォード大学、研究員
クローディア・ソウザ、ポルトガル、リスボン大学、講師
大橋岳(おおはし・がく)、日本、京都大学霊長類研究所、教務補佐員、31歳
松沢哲郎(まつざわ・てつろう)、日本、京都大学霊長類研究所、教授、56歳
<概要>
大きなパパヤの実を取ってきた野生チンパンジーが、それを「贈り物」に使うことがわかった。おとなの男性が、発情期を迎えているおとなの女性に渡すことが多い。そのかわりにセックスができたり、毛づくろいをしてもらえる。
調査地は西アフリカのギニアのボッソウ。京都大学霊長類研究所のチームが1976年から継続観察している。調査期間は、2003年12月から2005年12月までの2年間、そのうちの454日間調査した。群れの個体数は、当時12?22個体だった(2003年11月に呼吸器系疾患の流行で5個体が死亡した)。この調査期間中、おとなの男性はいつも3名、おとなの女性は4-8名だった。ここのチンパンジーは、石器を使ってアブラヤシの硬い種を叩き割って中の核を取り出して食べる文化をもっていることで知られる。また、彼らのすむ森は、ボッソウ村(人口約3000人)のすぐ裏に位置しており、人間が農作物を作る畑や稲のたんぼや、荒地としてのサバンナに囲まれている。現地のマノン人は自分たちの祖先がチンパンジーだという信仰をもっていて、彼らをトーテムとして守っている。つまり人間とチンパンジーが共存し同じ場所を使う。そこで、おとなの男性チンパンジーが役割分担(先陣、つきそい、しんがり)して、道を渡ることでも知られている。今回は、野生チンパンジーが、人間の農作物とくに村の民家の軒先に実った大きなパパヤの実を(村の人々が見守る中で公然と)盗んで、それを贈り物に使うことがわかった。

調査期間中に、786回の農作物荒らしがあった。そのうちの58回で、手に入れた食物を仲間で分け合った。分け合いが確認された58回について、さらに詳しく分析した。全部で17種類の食物があった。パパヤ、パイナップル、オレンジ、とうもろこし、カカオ、キャッサバなどである。しかしそのうちの大部分の43回がパパヤの実か葉か茎かで、とくに36回がパパヤの大きな実だった。
58回のうち、最も多い25回が、おとなの男性がとってきたものをおとなの女性と分けるものだった。次に多いのは20回で、母親がとってきて子どもに分かち与えたり、子ども(といってもおとなの男性も含む)がとってきて(年老いた)母親に分かち与えたりした、つまり母子間の分かち合いである(この母子間の分配は、血縁選択で説明できるもので、そうふしぎではない。チンパンジーはこの母子間の食物分配をよくする)。
つまり、食物を分け合った58回の全体の大半を占める典型的な事例として、「おとなの男性が村の民家の軒先のパパヤの木に登って、パパヤの実を1個ないし2個とってきて、それを森に持ち帰り、待っていたおとなの女性に分け与えることが多い」ということがわかった。その前後の行動をみると、この男性は、この女性とセックスできることが多かった。また、女性に毛づくろいをしたり、女性から毛づくろいをされたりすることも多かった。食物とセックスの交換である。
パパヤの実を取りにいこうとする直前、おとなの男性チンパンジーは毛を逆立てて、自分の体をぼりぼり掻く。これは不安の兆候である。だいたいいつもの4倍程度の頻度で掻くことがわかった。つまり、人間のいる村の民家の軒先のパパヤをとるので、かなり緊張していると考えられる。こうして、高いコストを払って手にいれた貴重な食物だから、ふつうに考えればそれを分かち与えるのは得策ではない。それをあえて分かち与えるという点から見ても、これは「贈り物」といえるだろう。
これまで、野生チンパンジーが狩猟をして、獲物のサルやイノシシやシカをなかまとわかちあうことは知られていた。しかし、肉の分配は知られていたが、植物のばあいはそうした分配はほとんどおこらない、と信じられてきた。人間とチンパンジーが共存するようになったことも一因だと考えられる。つまり、チンパンジーが「大きなパパヤの実」という狩猟の獲物に匹敵する新たな食物資源を発見して、おとなの男女が、こうした「禁断の果実を分かち合う」というような新たな行動が生まれたのだろう。 |
朝日新聞(9月12日 30面、9月19日 1面)、京都新聞(9月12日 28面、35面)、産経新聞(9月12日 29面)、しんぶん赤旗(9月12日 14面)、中日新聞(9月12日 27面)、日本経済新聞(9月12日42面)及び毎日新聞(9月12日 31面)に掲載されました。 |
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