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ニュースリリース

マウス未分化型精原細胞の精巣内ニッシェと分化に伴う移動を解明
2007年9月7日


説明をする吉田 松生医学研究科助教
 吉田 松生医学研究科助教らの研究チームは、精子が継続して作られる"おおもと"となる細胞(未分化型精原細胞)の精巣内での振る舞いを、映像として捉えることに成功し、血管や男性ホルモン産生細胞の付近に好んで局在していた未分化型精原細胞が、分化に伴ってダイナミックに移動して精巣全体に広がり、そののち精子になっていくことを明らかにしました。この研究成果が米国科学誌「サイエンス」に掲載されることになりました。

<研究成果の概要>
 精子形成幹細胞は近年注目を浴び、その性質が急速に明らかにされている。その一方で、精巣の中でどの細胞が幹細胞なのか?どこで、どのように振る舞うことによって、精子形成を維持(自分自身を維持しながら分化細胞を産み出す)しているのか?といった点は、未だ多くが謎に包まれている。ほ乳類精巣では、精細管という管の中で精子形成が進行する(図1)が、今日、精細管の中の「真の幹細胞」同定することは不可能である。そのため、現段階でわれわれは、幹細胞とごく初期の分化細胞を含む「未分化型精原細胞」に注目している。これは精巣全体の1%に満たない少数の細胞で、現在幹細胞を含むことが示されている最小の集団である。

【図1】 マウス精巣の構造。精子形成は長く曲がりくねった精細管で起こる。その間を網目のように走る血管や間質(ライディッヒ細胞)が埋めている。精細管の中には精子形成細胞がぎっしり詰まっており、精原細胞は最も外側に位置している。未分化型精原細胞はこの一部である。(左)毛利秀雄・星元紀監修、新編 精子学(2006)より改変。(右)L. Russellら Histological and histopathological evaluation of the testis (1990)より改変。

 吉田助教らは、以前、緑色蛍光タンパク質GFPを用いて未分化型精原細胞を可視化するトランスジェニックマウスを作出した。本研究では、可視化された細胞を精巣中で連続観察する系を開発し、その分布と動きを検討した。その結果、未分化型精原細胞は、精細管の中でも、精細管を取り巻く血管網およびライディッヒ細胞(男性ホルモン産生細胞)の付近に好んで局在し、分化の際には精細管全域に広がっていく様子が明らかとなった(図2)。このことは、精細管のなかで血管やライデッヒ細胞に接する領域が未分化型精原細胞のニッシェ(幹細胞や前駆細胞の増殖・自己複製・分化を制御する微小環境。分化に向かう細胞はここから離れる。)としてはたらくことを意味する。さらに精細管を他の個体の精巣に移植し、血管やライデッヒ細胞との位置関係を変化させたところ、未分化型精原細胞は血管やライデッヒ細胞の新しいパターンに一致して局在した。ニッシェが、周辺組織との位置関係によって柔軟に再編成され得ることが分かる。

【図2】 連続観察した、精細管内のGFP標識未分化型精原細胞(右図で緑で示す白く光った細胞)。
 血管(赤)やライディッヒ細胞(黄)の近くに局在していた未分化型精原細胞は、分化型精原細胞に転換する過程で、精細管(青)全体にわたってまんべんなく広がっていく。

 本研究は、いままで固定標本でしか観察されなかった未分化型精原細胞の、実際の精巣内での挙動を明らかにした。その結果、実体がはっきりしなかったほ乳類精子形成の幹細胞/前駆細胞ニッシェの構造的基盤が明らかになった。ほ乳類の精子形成幹細胞システムを理解する上で重要な知見である。本研究で示唆された、ニッシェが周辺組織との位置関係にしたがって形作られるという柔軟性は、ショウジョウバエや線虫の生殖幹細胞ニッシェが発生期に作られ固定されたものであるのと対照的で、広く幹細胞研究に示唆を与えるものである。

 本研究は、文部科学省・科学研究費・特定領域研究(公募研究)として行われた。研究領域:「生殖細胞の発生プロセス・再プログラム化とエピジェネティックス」(中辻憲夫代表)、「細胞の運命と挙動を支配する細胞外環境のダイナミズム」(長澤丘司代表)、「性分化機構の解明」(諸橋憲一郎代表)。また、初期段階においては科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業・個人型研究(PRESTO)「認識と形成」領域(江口吾朗統括)において進められた(2001〜2005年)


<発表論文>
A vasculature-associated niche for undifferentiated spermatogonia in the mouse testis Scienceオンライン版 (2007年9月6日)



 朝日新聞(9月7日夕刊 17面)、京都新聞(9月7日 27面)、産経新聞(9月7日 2面)、日刊工業新聞(9月7日 20面)、日本経済新聞(9月7日 15面)、毎日新聞(9月7日 3面)及び読売新聞(9月7日 2面)に掲載されました。