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mRNA前駆体の核内係留におけるESEの役割
2007年8月14日
大野 睦人ウイルス研究所教授らの研究グループは、細胞の持つRNAの品質管理機構の重要な局面を明らかにしました。この研究成果が、米国科学誌「米国科学アカデミー紀要(Proceeding of the National Academy of Sciences USA (PNAS))」誌8月13日−17日の週の電子版に掲載されることになりました。
<研究概要>
ヒトなどの高等生物では、タンパク質の情報をコードする遺伝子の多くはイントロンと呼ばれるタンパク質の情報をコードしない介在配列によって、多数のエキソンと呼ばれる部品に分断化されている。であるから、タンパク質の情報が発現するためには、まず、遺伝子DNAの存在する核の中で遺伝子の情報がRNAに転写され、次にRNAのスプライシング(編集)反応によってイントロンが除かれ、エキソン同士の連結が行われて初めて連続したタンパク質の情報を持つmRNA(メッセンジャーRNA)が作られる。続いて、mRNAは核から細胞質へと輸送され、そこでmRNAの情報に基づいてタンパク質が作られる(翻訳)。タンパク質が作られるのは細胞質であるため、mRNAの核から細胞質の輸送が起こらない限りタンパク質が作られる事はない。
一般に、イントロンが除かれる前のRNA(mRNA前駆体)はスプライシングが終わるまで核の中に留められていて細胞質に現れることはない(mRNA前駆体の核内係留)。これは、間違ったタンパク質の情報を細胞質に伝えないというRNAの品質管理機構のひとつである。ところが、一部の”弱い”イントロン(スプライシング活性の低いイントロン)を持つmRNA前駆体は、この核内係留の活性が弱く、細胞質に漏れ出てしまう傾向にある。もし漏れ出てしまったら、間違った異常なタンパク質が産生してしまうことになり、細胞に害毒を及ぼす可能性がある。このような”弱い”イントロンを持つmRNA前駆体はしばしばESE(exonic splicing enhancer、エキソン内スプライシング促進配列)と呼ばれる配列をエキソン内に持っている。ESEは”弱い”イントロンのスプライシングを促進する配列である。
このESE自体がRNAの核内係留活性を持っており、mRNA前駆体の核内係留を補助することを今回私たちは明らかにした。ESEは、この核内係留活性によって、”弱い”イントロンを持つmRNA前駆体が細胞質に輸送されてしまうことを防いでいると考えられる。しかし、”弱い”イントロンを持つmRNA前駆体からイントロンが除かれmRNAとなった後でも、mRNA上のESEはmRNAを核内に係留するのだろうか?もし、そんなことが起これば、イントロンが除かれたmRNAが細胞質へ輸送されずタンパク質ができなくなってしまう。実は、このESEによる核内係留効果は、スプライシングが完了することによりリセットされ、核内係留効果が解除される事が分かった。このような”核内係留とその解除”という巧妙な仕組みにより、”弱い”イントロンを持つRNA前駆体から作られたメッセンジャーRNAは、ESEを持っていてもちゃんと細胞質へと輸送される。私たちは、細胞の持つRNAの品質管理機構の重要な局面を明らかにすることができた。
京都新聞(8月14日夕刊 11面)、日刊工業新聞(8月15日 15面)及び日本経済新聞(8月14日夕刊16面)に掲載されました。