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ニュースリリース

胚盤胞の軸は初期の細胞系譜によらず、透明帯の形に沿うように決められる
2007年4月20日


 医学研究科腫瘍生物学講座 藤森俊彦助教
 医学研究科腫瘍生物学講座(鍋島陽一教授)の黒滝陽子前技術員、藤森俊彦助教らの研究チームは理化学研究所と共同で、対称に見える受精卵からどのように胚盤胞(着床前の胚)の軸が形成されるかを、様々な新しい手法を用いて明らかにしました。




研究成果の概要
 図1
 マウス胚は、受精後3.5日後に着床する。それまでの期間、胚は透明帯と呼ばれる膜に包まれ、母親の卵管、子宮の中で発生が進む。着床前の胚は、胚盤胞と呼ばれる(図1)。からだ自身になるICM(内部細胞塊)と将来胎盤などの胚体以外の組織になるTE(栄養外胚葉)の2種類が見られる。ICM細胞は胚盤胞の中で偏って存在しており、胚盤胞にはE(胚)側、Ab(非胚)側の軸を見いだすことができる。本研究では、対称に見える受精卵からどのようにこの胚盤胞の軸が形成されるかを、様々な新しい手法を用いて明らかにした。

 まず、胚の中の細胞を全て追跡するシステムを開発した。全ての細胞の核を緑色の蛍光タンパク質で標識したトランスジェニックマウスを作製し、その胚を顕微鏡下で連続的に観察できるようにした。撮影したこれらの画像を用いて、全ての細胞の挙動を追跡した(図2)。これによって、胚盤胞のE-Ab軸は初期の細胞系譜によらず決まることが示唆された。

 図2

 図3
 顕微鏡下だけではなく、生体内の発生過程でも同じことが起こっているか調べる為に、弱い紫外線によって色の変わるタンパク質を発現するトランスジェニックマウスを作製し(理化学研究所発生再生総合科学センターの八田公平博士らとの共同研究)、それを用いた(図3)。2細胞期の片方の割球を標識しマウスの卵管内で発生した胚盤胞において、それぞれ赤と緑に標識された細胞の分布を解析した。その結果、生体内で発生した胚盤胞の軸も2細胞期の細胞系譜によらず決まることが示唆された。

 2細胞期に2つの割球(細胞)が存在していた場所と、将来の胚盤胞の軸ができる場所には関連があり、2細胞期の割球の境界面とE-Ab軸は垂直に近くなる。細胞系譜との関連がないので、それを決める要因が何かを探った。詳細に観察すると胚を取り囲んでいる透明帯は球ではなく歪んでおり、その形は発生の間ほとんど維持されていることがわかった。透明帯を無くしてしまうと、2細胞期の割球の境界面とE-Ab軸との関連が見られなくなることから、歪んだ透明帯の形に沿うように胚盤胞の軸が形成されると考えられた(図4)。

 図4

 胚軸は細胞系譜によらずに形成されるのに、2細胞期の細胞のあった場所との関係がなぜできるかについて考察すると、透明帯の中で胚が回転しており、透明帯と胚の細胞との相対的位置関係は変化することが明らかになった。そこで、アルギン酸ゲルを用いて、透明帯の中での胚の動きを抑制した所、胚盤胞は透明帯の形に沿う形で形成され、その時に2細胞期の片側の割球から由来する細胞が片側に偏って存在した。このことから、通常の胚においては、透明帯の中での回転によって、胚軸と細胞系譜の関係が無くなることが示唆された。
 これらの実験によって、マウス胚において胚盤胞の細胞の性質は発生初期には決まっておらず、比較的発生後期に差がみられるようになり、胚が歪んだ透明帯に沿うように形成されることを示唆している。

 本研究では、正常に発生するほ乳類胚の中で細胞の性質は比較的緩やかに決まることが示唆された。また、本研究で開発した胚の経時的観察技術は、今後他の様々な形態形成の場面の研究においても応用されることが期待される。



 京都新聞(4月20日 29面)及び産経新聞(4月20日 24面)に掲載されました。