北所 健悟 低温物質科学研究センター助手は、大阪大学 微生物病研究所の堀口 安彦 教授、神谷 重樹 助手のグループとの共同で、パスツレラ・マルトシダが産出する毒素タンパク質の細胞内機能領域の立体構造の決定に世界で初めて成功し、その活性化のメカニズムを解明しました。
このたび、この研究成果が、米国科学アカデミー紀要「PNAS」誌(3月12日の週の電子版)に掲載されることになりました。
[論文名]
Crystal structures reveal a thiol-protease like catalytic triad in the C-terminal region of Pasteurella multocida toxin.
研究成果の概要
パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida、Pm)はウシの出血性敗血症、ブタ萎縮性鼻炎、家禽コレラ、など多種類の動物に種々の症状の病気を起こす病原細菌であります。最近ではペットを介して感染する本菌による人獣共通伝染病(パスツレラ症)が問題となっています。実際にペットとなるイヌやネコの本菌の保有率は70%以上であるといわれています。Pmの病原性と感染症の病態との関連性については不明な点が多いですが、特定の血清型のPmが特有のタンパク性毒素(以下、PMTと略す)を産生することが知られていました。PMTは種々の動物に対して致死活性を示すほか、細胞レベルでは、三量体GTP結合タンパク質のGqやG12/13など細胞の生命活動に関わる情報伝達分子を活性化することが知られています。しかしながら、その活性化メカニズムの詳細は不明であります。
研究グループでは、本菌が産生するタンパク性毒素(PMT)のうち、宿主細胞内で作用する領域(C-PMT)を結晶化し、大型放射光施設SPring-8のビームを利用してX線結晶構造解析することで、その立体構造を明らかにしました。その結果、C-PMT分子はトロイの木馬様の全体像を呈しており、それぞれ木馬の脚(C1)、体躯(C2)、頭(C3)に相当する三つの機能ドメインから構成されていることがわかりました(図1)。C1ドメインには細胞膜成分である脂質に結合するシグナルがあり、実際にC-PMT分子を宿主細胞膜の細胞質側表面に誘導する機能があることがわかりました。さらに、C3ドメインには酵素活性中心と思われるクレフトが存在し、毒素分子の酸化還元状態によって、C3ドメインの構造が大きく変化して、還元条件下でのみ触媒トライアド(酵素活性に関わる3種のアミノ酸の配置構造)がクレフト内で形成されることを見出しました。また、C-PMTで見出された触媒トライアドの空間配置は典型的なシステインプロテアーゼであるパパインや、近傍領域に相同性のあるAvrPphB(緑膿菌の病原因子)やN-アセチルトランスフェラーゼ(サルモネラの薬剤耐性に関わる酵素)の触媒トライアドのものと完全に一致しました。これらは、野生型のC-PMTに加えて、二種の還元型毒素変異体の立体構造解析の結果から、明らかにすることができました。
図1 トロイの木馬様の立体構造を有するC-PMTの立体構造 |
今回の結果から、PMTがパパイン様の触媒領域を持つこと、PMT分子の構造自体が酵素活性のオン・オフの制御に関わっていること、PMTは宿主の細胞膜の細胞質側表面で作用していることがわかりました(図2)。一般に細菌毒素は宿主体内の移行、標的組織への侵襲、標的細胞への結合と侵入、生体成分の修飾を自働的に行う多機能分子であります。今回、PMTにおいてその多機能性を担うメカニズムの一端が構造解析から明らかとなりました。これらの成果は、Pmが関与する疾病の発症機序を解明する上で重要な手がかりを与えると期待できます。

図2 C-PMTは細胞膜に結合し、細胞質側表面で宿主に作用する。 |
問い合わせ先
京都大学・低温物質科学研究センター 学際低温応用研究部門
北所 健悟 (075ー753ー4061)
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