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ニュースリリース


右利きのヘビ ― 左右性スペシャリストの進化

2007年2月15日

 

京都大学大学院理学研究科生物科学専攻
 細 将貴、堀 道雄
信州大学理学部/科学技術振興機構さきがけ研究21
浅見 崇比呂

カタツムリ食のヘビは右利き?―左右非対称性が適応進化した脊椎動物の発見

 イワサキセダカヘビの下顎骨格

 ヘビには、カタツムリだけを食べるグループがある。カタツムリ専食のセダカヘビで歯の並び方や捕食行動を調べたところ、脊椎動物としては例外的に左右が著しく非対称だった。捕食実験により、これらの左右非対称性が、右巻きのカタツムリを食べるために適応進化した結果であることがわかった。巻き貝には、左巻きよりも右巻きのものが圧倒的に多い。こうした非対称性は、巻き貝専食の水生昆虫やカニでも見つかっている。したがって、陸上の脊椎動物と水生の節足動物とで、同一の役割をはたす非対称性が、必要に応じてくり返し進化したことがわかる。東南アジアには、他の地域と比べると、カタツムリに左巻きの種が多く見つかる。このことは、ヘビが“右利き”に進化した結果、そこでは左巻きが有利になり、左巻きへの進化が促進されたことを示唆している。


研究成果の概要

 巻き貝には右巻きと左巻きがあり、右巻きのものが圧倒的に多い。そのため、右巻きの巻き貝を食べるのに適応して、左右の非対称性を進化させた捕食者が、水生昆虫やカニで見つかっていた。我々は、カタツムリ専食性のヘビ類に注目し、このヘビ類が右巻きのカタツムリ捕食に適応している可能性を検証した。

  東南アジアに生息するセダカヘビ類は、ほとんどカタツムリしか食べないことが知られている。ヘビは、顎で殻を砕くことができない。だから、カタツムリを食べるには、中身を殻から引き抜いて食べなくてはならない。八重山諸島にすむイワサキセダカヘビの場合、這っているカタツムリに背後から近づいて、頭を左に傾け、尾の根元にかみつく。カタツムリはかみつかれたまま殻の中に引っ込むが、ヘビは殻の中に引き込ませた下顎を左右交互に動かすことで、殻の中身を引き出して食べてしまう。

  イワサキセダカヘビの下顎の形態に注目してみたところ、左右で歯の本数が著しく異なり、右側により多くの歯が密に並んでいることがわかった。この非対称性は、卵から孵化する前に成立していた。また世界中のセダカヘビ類の標本を調べたところ、ほとんどの種で同じように左右が非対称だった。ところが、ナメクジを食べるように二次的に進化したセダカヘビでは、左右同数だった。

  セダカヘビ類の左右非対称な下顎が、右巻きのカタツムリを効率的に捕食するために機能しているのかどうかを検証するために、右巻きと、突然変異で左巻きになったカタツムリの両方を与える捕食実験をおこなった。その結果、食べ終わるまでに、左巻きには右巻きよりもはるかに手間取ることがわかった。また、かみつく際に頭を左に傾けるという行動をカタツムリの巻き方向に合わせて変えることができないために、左巻きの捕食には頻繁に失敗することがわかった。

  以上の結果から、セダカヘビ類が右巻きのカタツムリを効率的に捕食するために、非対称な歯の数や捕食行動を適応進化させたことがわかる。陸上の脊椎動物と水生の節足動物とで、同一の役割を果たす左右非対称性が、必要に応じてくり返し進化(収斂進化)したことがあきらかだ。一方で東南アジアには、他の地域と比べると、カタツムリに左巻きの種が多く見つかる。このことは、ヘビが“右利き”に進化したため、左巻きが有利になり、その結果、カタツムリの左巻きへの進化が促進されたことを示唆している。



 科学新聞(2月23日 4面)、京都新聞(2月16日 29面)及び産経新聞(2月20日 27面)に掲載されました。