音声用スキップ(本文)
ニュースリリース

「生きた細胞の核から自由自在に染色体を取り除く」−再プログラム化と染色体除去技術による体細胞の幹細胞化−

2006年11月6日


 細胞観察する多田 高 助教授(左)と松村寛行 氏(右)
   再生医科学研究所の多田 高 助教授の研究チームは、体細胞と胚性幹 (ES) 細胞の融合細胞から望んだ染色体のみを丸ごと取り除き、生きたままの加工融合細胞を作出する事に成功しました。

 この成果は、松村寛行(京都大学大学院医学研究科博士課程3年)、多田政子(株式会社リプロセル主任研究員)、尾辻智美(株式会社リプロセル研究員)、安近健太郎(京都大学・再生医科学研究所研究員、(現在;京都大学医学部外科系外科学講座、肝胆膵・移植外科分野))、中辻憲夫(京都大学・再生医科学研究所、教授)、Azim Surani (英国ケンブリッジ大学、教授) との共同研究によって得られました。平成18年11月 5日午前3時(米国東部時間)に米国科学誌「Nature Methods」のオンライン速報版で発表されました。

研究の背景)
  再生医療に用いる幹細胞として胚性幹(ES)細胞が注目されています。ES細胞は、様々な細胞に分化できる多能性だけではなく、体細胞を多能性幹細胞に変えてしまう再プログラム化能を持つことを同研究グループは以前に発見しました。この技術は、体細胞から多能性幹細胞を作り出す事に応用できるのではないかと注目を集めていました。しかし、体細胞由来の幹細胞の作製には、融合細胞からES細胞の染色体のみを選択的に取り除くための技術開発が必要でした。生きた細胞の核から狙った染色体を丸ごと(一本の染色体に千以上の遺伝子が乗っている)取り除いてしまう方法は、世界的にも報告が無く困難とされてきました。

成果の概要)
  多田 高 助教授の研究グループは、DNA複製後の姉妹染色分体間で効率よく組み換えを起こす分子(染色体除去カセット;染色体組み換えDNA断片)の構築に成功しました。取り除きたい染色体に染色体除去カセットを組み込んだES細胞を準備します。体細胞と細胞融合した後にDNA組み換え酵素で処理すると、生きたままの融合細胞の核から染色体除去カセットで印された染色体のみが選択的に排出されました(図1)。これは、組み換えを起こした染色体が細胞にとって好ましくない形に変化し、自然に細胞の核から排出される仕組みを応用した結果です。

図1
  マウスES細胞を用いた実験により、ヒトES細胞を用いた応用実験のための基礎技術を確立しました。また、複数本の染色体を取り除くことにより染色体除去技術の確立を示しました。将来的には、移植細胞への免疫拒絶に深く関わるMHC(組織適合性抗原複合体)の遺伝子群が集積する染色体(マウスでは第17番染色体、ヒトでは第6番染色体)の除去や、ES細胞由来の全染色体除去により、体細胞の遺伝情報を持ち免疫拒絶反応を大幅に軽減した多能性幹細胞の作出が可能になるのではないかと期待されます。
  ES細胞との細胞融合による体細胞の再プログラム化と、新たに開発した染色体除去技術の融合により、個人の体細胞から多能性幹細胞を作り出す道筋が見えてきています(図2)。クローン技術を用いることなく、個人の多能性幹細胞を作り出すための一つの技術として注目されています。また、体細胞から作製される幹細胞は、難病患者からの研究用モデル細胞の作製や、免疫拒絶反応の少ない次世代の幹細胞として医療に大きく貢献する可能性があります。

[論文名] 「Targeted chromosome elimination from ES-somatic hybrid cell nuclei」
Hiroyuki Matsumura, Masako Tada, Tomomi Otsuji, Kentaro Yasuchika, Norio Nakatsuji, Azim Surani and Takashi Tada

問い合わせ先)
京都大学・再生医科学研究所 幹細胞加工研究領域
多田 高 (075-751-4114)

図2



 朝日新聞(11月6日 3面)、科学新聞(11月24日 2面)、京都新聞(11月6日 1面及び3面)、産経新聞(11月6日 24面)、日刊工業新聞(11月6日 2面)、日本経済新聞(11月6日 21面)、毎日新聞(11月6日 3面)及び読売新聞(11月6日 2面)に掲載されました。