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ニュースリリース


一酸化窒素による血管の弛緩を調節する仕組みの一端を解明

2006年9月25日


  森 泰生教授(大学院工学研究科合成・生物化学専攻)らの研究グループは一酸化窒素による血管の弛緩を調節する仕組みの一端を突き止めました。
  森教授らは細胞膜に存在し、電荷を持ったイオンの移動を制御するイオンチャネルたんぱく質のひとつ、「TRPC5」に着目。一酸化窒素によりTRPC5が直接酸化されることにより細胞内にカルシウムイオンを取り込むことを見出しました。このカルシウムによりより一層の一酸化窒素が産生され、血管の弛緩を促していると考えられます。この分子の機能をさらに解明することで動脈硬化などの血管病研究への応用が期待されます。
  なお、この論文は 24日(日曜日)の英国科学誌「ネイチャー・ケミカルバイオロジー」電子版に掲載されました。

研究成果の概要

 1998年のノーベル医学・生理学賞の対象となった一酸化窒素(NO)は、重要な生体内生理活性物質のひとつである。血管は内側に内皮細胞層、そしてそれを取り巻く平滑筋細胞層によって構成されている。内皮細胞の中で産生されるNOは、平滑筋を弛緩させ、それにより動脈を拡張し、ひいては血流量の増加と血圧の降下を引き起こす物質として発見された。この生理作用以外にも、脳の記憶・学習や身体への異物の進入に対する生体防御反応を担っていることが明らかとなり、NOは現在最も注目されている。

  森教授らのグループは、血管内皮細胞表面に1ナノメーターに満たない微小な「穴」を形成するイオンチャネルタンパク質TRPC5が、NOの産生の「スイッチ」として働くことを発見した。すなわち、血管内皮細胞に化学的・物理的な刺激が加わると、TRPC5の「穴」が開き、カルシウムを細胞外から内へと通すことによって、NO産生が引き起こされることをあきらかにした。また、TRPC5は、スイッチ機能だけでなく、産生された微量のNOを検出しNOの産生をさらに増幅する、「センサー・アンプリファイヤー」としての機能も備えていることがわかった。今まで、NO産生を引き起こすカルシウムを通すイオンチャネルタンパク質と、「それがNO産生においてどのように働くか」という作動メカニズムがわかっていなかったので、今回、その点が世界で始めて解明されたことになる。さらに、今回、ニンニク含有の有効物質に構造が非常に似ている「活性ジスルフィド」が、イオンチャネルタンパク質TRPC5の「穴」を開ける作用を示し、NOの産生に導くこともわかった。そのことから、ニンニクの健康増進作用の一つが、血管の弛緩による血圧の降下であるということも明らかになった(今までわかっていたニンニク成分の効果は、ビタミンEの細胞内への輸送に関わっていること)。

 ニトログリセリンなどの亜硝酸化合物が、狭心症等の心臓病の治療に広く用いられるのは、類縁化学物質であるNOが血管の弛緩・拡張作用を有するからである。しかし、ニトログリセリンは、投与を続けると患者に徐々に効かなくなる「耐性」を生じやすい、という大きな問題点がある。そこで、「活性ジスルフィド」をリード化合物として、イオンチャネルタンパク質TRPC5の「穴」を開けるような薬剤を開発すれば、そういった薬剤は身体の細胞に本来備わっている、NOを産生するメカニズムを活発にすることができるので、「耐性」の問題は解決できる。また、バイアグラや育毛剤もNOと同様のメカニズムにより毛細血管の血流量を増やして有効性を示すことから、今回の発見は勃起不全症(ED)やハゲの治療薬開発にも結びつく。このように、既知の亜硝酸化合物、バイアグラや育毛剤よりも優れた新しい臨床薬の開発・研究において、今後、TRPC5は重要な創薬ターゲットになると考えられる。

NO産生スイッチ・センサー・増幅器としてのTRPC5


 朝日新聞(9月25日 30面)、京都新聞(9月25日 1面)、産経新聞(9月25日 30面)、日刊工業新聞(9月25日 30面)、毎日新聞(9月25日 2面)及び読売新聞(9月25日 38面)に掲載されました。