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ニュースリリース
3月24日・木曜日 記者レク


地球シミュレータで太陽コロナの謎にせまる



 京都大学大学院理学研究科附属天文台の大学院生の磯部洋明、宮腰剛広研究員、柴田一成教授、および東京大学理学系研究科の横山央明助教授の研究グループは、世界最大級のスーパーコンピュータ・地球シミュレータを用いて太陽大気の大規模数値シミュレーションを行い、太陽の浮上磁場領域(黒点形成領域)のコロナ加熱とフィラメント形成メカニズムの新たなモデルを提唱しました。この結果は2005年3月24日発売の英国科学誌Natureに掲載されます。


 地球シミュレータは、日本が誇る世界最大級のスーパーコンピュータです。地球変動の予測がその第一の目的ですが、これまで不可能だった大規模な数値シミュレーションにより、画期的な成果をあげることが期待できる分野にも計算機資源が割り当てられています。天文学は、地上での実験が不可能なこと、某大な空間スケールに広がる複雑な現象を扱うことから、大規模数値シミュレーションが最も威力を発する分野の一つです。我々のグループは地球シミュレータを用いて、太陽の浮上磁場領域のこれまでで最も高解像度の3次元数値シミュレーションを行いました。

 太陽浮上磁場領域とは、太陽表面で磁場が内部から出現し、黒点が形成されつつある領域のことです。浮上磁場領域では、太陽フレア、ジェット噴出など、磁気エネルギーの解放による爆発現象が頻繁に起きています。これらの磁気的活動現象の解明は、天文学的に重要な問題であると同時に、太陽?地球環境変動のメカニズムを探る上でも非常に重要な課題です。

図1 京都大学飛騨天文台で撮影された浮上磁場領域のHα線像。図中の円は地球の大きさを示す。

 図1は京都大学飛騨天文台で撮影された、浮上磁場領域のHα線(水素原子の出す光)画像です。左下の黒い模様が黒点、白い領域はプラージュと呼ばれる、加熱が起きている領域です。右上の大きなプラージュの下には、左下の黒点と逆向きの磁場極性をもった黒点が隠されています。特徴的なのは黒点とプラージュを結ぶ、アーチフィラメントと呼ばれる細長い構造で、磁力線の形を反映しています。我々は地球シミュレータを用いて、これまでにない高解像度で浮上磁場領域のシミュレーションを行い、観測されているようなフィラメント構造やフレア発生の様子を、世界で初めて再現することに成功しました。

図2 シミュレーション結果の3次元的可視化。グレーはガス密度の等値面、側面のカラーは温度分布、青の太線は磁力線を示す。

 図2はシミュレーション結果を3次元的に可視化したものです。グレーは浮上磁場領域のガス密度の等値面を示したもので、細長いフィラメント構造が上空に浮いているのがわかります。これがHα線で観測されるアーチフィラメントに対応します。断面のカラーは温度分布、青い太線は磁力線を表しています。図中央部の半円形の磁力線が内部から浮上してきた磁場で、上空の磁場と接する際にガスを加熱、加速してフレアやジェットが発生します。フィラメント構造の発達に伴い、フレアやジェットにも観測されているような細かい構造が見られます。シミュレーション結果を詳しく解析した結果、フィラメント構造は磁気レイリーテイラー不安定()という現象により形成されていることが分かりました。このようなフィラメント構造の発達は、これまでの低解像度シミュレーションでは見えていなかったもので、地球シミュレータの計算能力を使って初めてその形成メカニズムを明らかにすることができました。

 2006年には日本の次期太陽観測衛星Solar-Bが打ち上げられ、宇宙空間から高解像度の磁場やX線の観測データが得られます。地球シミュレータの計算能力とSolar-Bや飛騨天文台の観測データが車の両輪となって、太陽物理学の長年の課題にこの数年でさらに大きな進展があることが期待されます。


(注)磁気レイリーテイラー不安定
軽い磁場の上に重たいガスがのることによって不安定になり、重いガスが下に落ち込むことによって磁力線にそったフィラメント状の構造ができる現象。

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