中西重忠教授が恩賜賞・日本学士院賞を,
常脇恒一郎名誉教授が日本学士院賞を受賞

このたび,中西重忠教授が恩賜賞・日本学士院賞を,常脇恒一郎名誉教授が日本学士院賞を,それぞれ受賞されることになった。

受賞式は,7月上旬,日本学士院で行われる予定である。

以下に各氏の略歴,業績等を紹介する。


中西重忠教授は,昭和41年京都大学医学部を卒業,同46年本学大学院医学研究科博士課程を終え,米国国立衛生研究所(NIH)で客員研究員として3年間研究に従事し,同49年本学医学部医化学教室の助教授に採用され,同56年本学医学部免疫研究施設第2部門の教授となった。平成7年医学部大学院化に伴い,同大学院医学研究科生体情報科学講座教授となり,現在に至る。

同教授の今回の受賞の対象となったのは「神経伝達の分子メカニズムに関する研究」である。脳の種々の機能は,神経伝達物質とその受容体が作用し,神経情報が伝達されることによって引き起こされる。従って神経伝達物質と受容体がどのような分子からなり,どのように制御されているのか,又,それを介した神経伝達が脳機能の発現にどのように関わり,制御しているのかを明らかにすることは,脳研究の中心的な課題である。同教授の研究は神経伝達の機能分子と神経伝達の基本的なメカニズムを明らかにした極めて独創性の高い研究である。

まず第1に,痛みを伝達する神経ペプチド,サブスタンスPとその関連ペプチドの生合成機構の全貌を明らかにし,又神経細胞に特異的なRNAプロセシングによって神経ペプチドの生成が制御されるという新しいメカニズムを示した。第2に,伝達物質の生成機構から受容機構に研究を進め,遺伝子工学と電気生理学を組み合せた独創的な手法を開発し,サブスタンスPとその関連ペプチドの受容体の実体を明らかにした。この研究はペプチド受容体として初めてその実体を明らかにしたものであり,ペプチドの作用機構の理解を大きく進展させた。第3に,同教授はグルタミン酸受容体の解明に成功した。グルタミン酸は興奮性伝達物質として,記憶,学習等の高次脳機能を制御し脳神経系において神経伝達の中心的な役割を果たす伝達物質である。同教授はグルタミン酸受容体を分子レベルで明らかにすると共に,本受容体は特徴ある一群の分子種からなるという,神経伝達の機構を知る上で基本となる事実を明らかにした。第4に,グルタミン酸受容体の機能の解析を進めることにより,グルタミン酸受容体を介した光や匂いの外部刺激の識別の分子機構ならびに記憶の獲得の基礎となる神経伝達の可塑性の成立の分子機構を明らかにした。

以上,同教授の研究成果は,神経伝達の基本的なメカニズムと脳神経機能の分子メカニズムを明らかにしたものであり,神経科学や分子生物学はもとより,生化学や生理学等の研究分野にも大きなインパクトを与え,その業績は国際的に高く評価されている。これら一連の研究に対して,昭和58年朝日賞,平成4年上原賞,同7年米国ブリストル・マイヤーズ・スクイブ神経科学賞,同8年慶応医学賞など多数の賞が授与され,又,同7年米国芸術・科学アカデミー外国名誉会員の栄誉を受けた。

(大学院医学研究科)


常脇恒一郎名誉教授は,昭和28年京都大学農学部を卒業,同30年本学大学院農学研究科修士課程を修了,博士課程に進学したが,同年米国カンサス州立大学大学院博士課程に編入学し,同33年同課程を修了し,Ph. D. の学位を取得した。その後,カナダ国マニトバ大学におけるポストドクトラルフェローを経て同34年国立遺伝学研究所生理遺伝部研究員に採用され,同40年京都大学農学部実験遺伝学講座助教授に配置換となり,同41年同講座の教授となった。平成6年京都大学を停年により退官し,京都大学名誉教授の称号を授与され,同年より福井県立大学生物資源学部教授となり現在に至っている。

同教授の今回の受賞の対象となったのは「コムギの進化に関する比較遺伝学的研究−コムギ属及びエギロプス属の比較遺伝子分析とプラスモン分析」である。コムギの進化,とくにその起源と分化を明らかにするため,コムギ属とそれに近縁なエギロプス属を対象に,広範な比較遺伝子分析とプラスモン分析を行ってきた。因みに,プラスモンとは,細胞質に存在する遺伝子の総称で,核の遺伝子の総称であるゲノムに対比される。

先ず,1955年からの約10年間を中心に行われた比較遺伝子分析においては,パンコムギとその祖先である二粒系コムギ,タルホコムギ及び一粒系コムギの4分類群に並行的に認められる形質変異を支配する遺伝子や雑種致死の原因となる遺伝子について分析し,パンコムギはアジアと欧米の集団に2極分化しており,アジア集団がパンコムギの原型であること,及び,パンコムギの起源地がカスピ海に面したイランの東北部であることを初めて明らかにした。1966年以降は,それまで,進化の体系的研究の対象となり難かったプラスモンの分析を,コムギ属とエギロプス属を対象に進めた。先ず,両属のすべての種のプラスモンをパンコムギに導入し,異種由来のプラスモンとコムギの核ゲノムをもつ多数の細胞質置換コムギを作出した。これらを用いて,コムギの様々な形態的・生理的形質に与えるプラスモンの遺伝的影響を分析し,両属のプラスモンを15型プラス7亜型に分類・命名した。次いで,細胞質置換コムギより分離した,プラスモン提供親由来の葉緑体とミトコンドリアのDNAを制限酵素分析法によって調べ,その結果に基づいて,プラスモン間の遺伝的距離を推定し,その系統樹を作成した。これら一連の研究から,コムギ・エギロプス両属のほとんどの倍数種の母親と父親が決定された。その過程で,パンコムギは二粒系コムギを母親,タルホコムギを父親に,そして,この二粒系コムギはクサビコムギを母親,一粒系コムギを父親にもつことも実証された。このような多年にわたる研究によって得られた,コムギの起源と分化に関する多くの独創的かつ先駆的な業績は,国の内外で高く評価されている。即ち,国内では,日本農学賞(1978年),遺伝学会木原賞(1992年),紫綬褒章(1995年)が授与され,国際的には日本人としてはじめてアメリカ農学会名誉会員に推薦され(1990年),さらに,米国科学アカデミー外国人会員にも選出されている(1996年)。

(大学院農学研究科)

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