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京都大学メールマガジン 号外(2010年8月12日)
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総長メッセージ「大学の危機?それとも、これをバネに!?」
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 京都大学総長 松本 紘

 我が国の大学は、研究者だけではなく、各界へ幅広く優位な人材を輩出するとともに、資源の乏しい我が国にとって重要な科学技術の創造の源となっている。このため、経済成長が停滞し、閉塞状態になっている我が国にとって、大学は、将来的な成長・発展を支える最大の基盤となることが期待されている。

 現在、政府において、平成23年度から平成25年度を対象とする「中期財政フレーム」が示され、これを基とした来年度の概算要求基準が7月27日の閣議で決定された。この決定で政策経費の一律10%削減の方針が盛り込まれ、この中には国立大学法人運営費交付金などの基盤的経費や科学研究費補助金等の文教・科学技術関連経費も含まれるという。

 この削減幅を現在示されている10%として見積もれば、今後3年間で計30%の削減となり、京都大学における試算によると、1年で58億円、3年で174億円という莫大な金額になる。この金額は、平成17~22年度までの6年間という歳月において、我が大学が血の滲むような努力をして捻出してきた効率化係数等による減額累計約56億円を、はるかに上回る大幅なものとなる。

 この削減額について、「京都大学の1550億円という総予算から見れば削減は可能ではないか」と思われる方もいるかもしれない。しかしながら大学の予算というものは、特定の事業のための経費や、使途が法的に厳密に定められているものがほとんどである。例えば政府からの競争的資金、企業等との共同研究費は、特定の研究やプロジェクトのために、また病院診療経費は、その全てが直接的に診療に使用される経費であるなど、全体の管理運営費として大学の裁量で振り分けられるものではない。実際、大学運営に必要となる基盤的な費用として教育と研究に使える予算は250億円余であり、その内から3年で174億円を削減していかなければならないのである。

 もし、この削減額を人件費で対応しようとすれば、大学の教育研究組織や事務組織の縮小・廃止ということにもなりかねない。教員組織の縮小は、競争的資金の獲得などに支障が生じ、削減がさらなる削減につながっていく負のスパイラルに陥り、大学の基盤そのものの崩壊へとつながっていく恐れがある。

 シミュレーション上では、削減額は、1年目には人材の育成や学術の発展を支える文系5研究科と2つの専門職大学院の人件費を含む1年間のすべての活動経費に相当し、2年目には、最先端医療・創薬・生命科学の発展を支える医学研究科、薬学研究科及び生命科学研究科の同様の経費、3年目には、最先端研究を支える工学研究科の同様の活動経費の8割に相当する額の削減が必要となる。

 このことが意味するのは、このような予算削減が実行されれば、京都大学からほぼすべての研究科や研究所といった基幹的な教育研究組織が跡形もなく消え去るという、恐ろしい事態を招くということである。

 今後は、年末の予算編成に向けた政府内での調整が続くこととなるが、財務省の財政健全化の考え方と成長戦略を柱とした民主党の国家成長型の考え方のバランスをどのように取るか、政府・与党内においては激しい議論が行われていくだろう。

 このため、私も、民主党幹部や閣僚などの要人との対話を通じて、京都大学をはじめとした大学が、国家の成長・発展にとって非常に大事であること、そのための基盤となる経費の削減は国家の将来を危うくすることを訴え、関係者から一定の理解をいただいている。
 
  一方、私は、関係者との話を通じて、我が国がとても厳しい岐路に立たされていることは肌身で感じている。この状況は、京都大学とても例外ではない。

 平成16年度の法人化以降、大学の運営費交付金への効率化係数等による削減に対し人件費削減を含めぎりぎりの努力をしてきた大学関係者の多くは、今回のさらなる削減という政府の方針に、我が国の高等教育に対する将来へのビジョンの欠如を感じ、また、我が国の未来そのものに大きな不安を抱いていることだろう。

 国際社会における競争がますます激化し、中国など新興国の躍進がめざましい中、日本の進むべき道はどこにあるのか。そして日本の社会がこれまでの右肩上がりから、量的に縮小せざるを得ない社会構造を見据え、今我々がするべきことは何かについて、深く考えるときであろう。

 政府は、我が国の高等教育政策について、まさに国家レベルでしっかりと議論し、未来のある政策ビジョンを作っていかなければならない。そして大学関係者にとっては、このような状況をまったくの「凶」と捉えるか、あるいは、ある一面において「吉」と捉えるか、教職員の意識の持ち方によって異なるのではないだろうか。今こそ、このような状況を契機として、予算のあり方にとどまらず、これまで、手をつけられなかった、もしくは手をつけようとしてこなかった、非効率な組織体制などの様々な見直しに着手し、今回の危機だけでなく、将来的な危機へ備えることこそ、今もっとも必要なことと考えている。

参考:
○国立大学協会及び日本私立大学団体連合会による平成23年度概算要求に関する共同声明について(平成22年7月14日)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2010/100714_3.htm
○首相官邸ホームページ掲載「財政運営戦略」(平成22年6月22日 閣議決定)
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2010/100622_zaiseiunei-kakugikettei.pdf
○首相官邸ホームページ掲載「平成23年度予算の概算要求組替え基準について」(平成22年7月27日 閣議決定)
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201007/__icsFiles/afieldfile/2010/07/27/23yosankumikae_1.pdf

 

 

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