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京大スピリット 機械研究会

2016年秋号

輝け!京大スピリット

ヒトと同じ脊索動物のなかま「ホヤ」から進化の過程をさぐる

平成27年度 京都大学総長賞
脇 華菜さん(大学院理学研究科 博士後期課程3回生)

脇 華菜さん

ホヤといえば、独特の風味に魅せられて、とりこになる人もいる。「食材になるのは日本や韓国の沿岸域に生息するマボヤ。研究には、世界各地の海に生息するカタユウレイボヤもつかいます。なじみがないかもしれませんが、研究のモデル生物の一つ。私は入学するまで、マボヤすら知らなかったのですが……」。ほほえむと三日月の形になる目が印象的な脇華菜さん。

 研究の出発点は「私たちの体はどのように進化して、この姿になったのだろう」という素朴な疑問。ヒトとは似ても似つかぬホヤが、なぜ進化の研究につかわれるのか。「幼生はオタマジャクシ型で、体の構造はきわめてヒトと近いのです」。ヒトと同じ脊索動物門に属するホヤは、私たち脊椎動物とは近縁なのだ。(図1)

 受精卵が成長し、多種多様な細胞に分かれるには、遺伝子が適切な場所とタイミングで働く必要がある。「ホヤを実験材料として利用するのは、どの細胞がどの組織に分化するのかという細胞系譜がすべてわかっているからです」。

 脇さんが注目したのは、外からの刺激を受けとる感覚神経。脊椎動物と無脊椎動物では感覚神経の分化のしくみが異なるが、ホヤ幼生の感覚神経の分化は、背側は脊椎動物型、腹側は無脊椎動物型と両方の生物種のしくみをもつようにみえる。遺伝子回路を調査すると、背側と腹側の両方で同じ遺伝子によって感覚神経が分化するが、その遺伝子を発現させるメカニズムが背側と腹側で異なることを解明した。(図2)

図1
図1a
図1b
脊椎動物と幼生の体の断面図をくらべるとよく似た構造をもつことがわかる。中央の写真はホヤの幼生。
図2
図2
図3
図3

 実験結果からあきらかになったのは、無脊椎動物の感覚神経を基に脊椎動物が新たな感覚神経のしくみを獲得したプロセス。(図3)「生物が祖先からどう進化してきたのかを解明する手がかりが、この発見に凝縮されています」。

「苦しいときもあったけど、つづけてきてよかった」と、笑顔を見せる。背中をおしたのは、『生物が好き』という思い。「つぎは異なる生物種を研究し、遺伝子回路をホヤと比較したい。高等な生物ほど、遺伝子の数が多くてたいへんですが、かならず挑戦したい」。いちだんと強めた語気が耳に残り、困難な道も、持ち前のあかるさで照らしだす頼もしい彼女の姿が目に浮かんだ。

カタユウレイボヤの成体

カタユウレイボヤの成体。カタユウレイボヤは研究のために養殖されており、安定した供給インフラが整備されている。実験室でシャーレにホヤ幼生を固着させ、京都大学舞鶴水産実験場もしくは東京大学三崎臨海実験所に運び、約1〜2か月間、海中で育てる。成長後、全国のホヤ研究者のもとに出荷される。「私たちのもとにも毎週、新しいホヤが届きます」

脇さんの絵

趣味は絵を描くこと。研究会の会議録の表紙や研究室のドアにも脇さんの絵が。「正確に形態を模写するよう気をつけています」

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