東北地方太平洋沖地震前後で地殻に加わった力の増減と余震との相関を実測で解明 -地下数百mでも地震すべり破壊挙動の理解は可能-

ターゲット
公開日

林為人 工学研究科教授、坂口清敏 東北大学准教授、渡邉則昭 同准教授、横山幸也 応用地質株式会社技師長らの研究グループは、2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)前後(1991年から2016年)に岩手県釜石鉱山の地下約300mで測定された地殻に加わる力(地殻応力)の増減と、釜石沖で発生した地震の規模および発生頻度の相関から、本震の断層すべり破壊が停止した地域では地殻応力が上昇し余震を活発化させ、さらにその余震で、上昇した地殻応力が元の状態に戻るという、典型的な地震-地殻応力関係を実測によって初めて確かめました。

本研究成果は、2017年8月31日に英国の科学誌「Scientific Reports」(電子版)に掲載されました。

研究者からのコメント

地震は浅くとも地下数km以深で発生するため、メカニズムの理解には同深度程度の研究が必要とされています。本研究成果は、地震発生のトリガーとなる地殻応力を地下数百mという浅い箇所、すなわち容易にアクセスできる深度であっても測定を積み重ねれば、巨大地震に伴う地震度の強さや津波の大きさを左右する断層のすべり破壊挙動を理解することに資する情報が得られることも示しており、地震の挙動解明や減災の対策構築への貢献が期待されます。

本研究成果のポイント

  • 地震の本震に伴う震源周辺域の地殻応力の急増とそれによる余震の活発化を、岩手県釜石鉱山での応力実測から初めて解明
  • 巨大地震の断層すべり破壊挙動を理解する情報を得られる可能性が示され、地震研究の新たな手法の確立へ貢献が期待される。

概要

地殻応力は地下で発生する方向性を持った力(圧力)で、場所毎に大きさと方向の異なる三次元的な圧力が同時に作用しています。地殻応力は地震発生のトリガーといえます。地殻応力の測定は、トンネルや地下空洞の設計・施工など工学分野で一般的に行われています。

本研究では円錐孔底ひずみ法という地殻応力測定法を用いて、1991年~2016年にかけて岩手県釜石鉱山の地下約300m地点において測定された地殻応力の大きさの変化(図1)に着目しました。図1から、東北沖地震1年後の地殻応力の3成分である最大、中間、最小主応力の大きさは、地震前に比べて2倍~4倍大きくなっていますが、徐々に減少して、3年後以降は地震前のレベルに戻っていることがわかります。

図2は東北沖地震における5m以上の地震すべりの分布図に三陸沖低地震活動域(SLSR)を重ねたものです。SLSRはいわゆる地震の空白域と言える場所です。東北沖地震によるすべりの小さな領域(5m未満のすべり)は釜石沖にコの字型に分布しています。また、この領域はSLSRに含まれています。釜石地域は東北沖地震のすべり域の西側外縁に位置していますが、本震によるすべりは釜石沖のコの字型の領域で止まったと推察されます。釜石沖で発生した地震の規模と発生頻度を調べると、東北沖地震前(1955年~2010年)は、約5.5年おきにマグニチュード4.7~5.1の地震が発生していました。一方、東北沖地震後の1ヶ月間は10日に1回程度の頻度でマグニチュード5.5~5.9の地震が発生しています。また、東北沖地震の1年~2年後の期間では、4か月に1回の発生頻度になり、その規模は東北沖地震前とほぼ同じ規模に戻っています。

上述した地殻応力の変化と釜石沖地震の相関から、「東北沖地震発生直後の地殻応力の急上昇は、釜石沖でSLSRがバリアとなりすべりが止まったことが原因である。この結果、上昇した地殻応力により釜石沖で発生する地震の頻度と強さが増加した。さらに、頻発した地震により地殻応力が解放され、釜石鉱山における東北沖地震後2年目以降の応力値は減少し地震の頻度も減少した。」という地震-地殻応力関係が理解されます。

図1:東北地方太平洋沖地震前後の地殻応力の変化
図2:東北地方太平洋沖地震による5m以上の地震すべり分布(Ariyoshi et al.,2014より改訂)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-017-10897-8

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227015

Kiyotoshi Sakaguchi, Tatsuya Yokoyama, Weiren Lin & Noriaki Watanabe (2017). Stress buildup and drop in inland shallow crust caused by the 2011 Tohoku-oki earthquake events. Scientific Reports, 7, 10242.

  • 日本経済新聞電子版(9月1日)に掲載されました。