プレート境界断層での温度不均質の原因を解明 -地震動予測への応用に期待-

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公開日

林為人 工学研究科教授、加藤尚希 大阪大学博士前期課程学生、重松紀生 国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員、森宏 信州大学助教、西川治 秋田大学講師、米谷優佑 山口大学博士前期課程学生らの日本研究グループは、R. Sutherland、J. Townend、V. Toyの率いるニュージーランド等の研究チームと共同で、オーストラリアプレートと太平洋プレートの境界であるアルパイン断層における断層面上の大きな温度不均質を明らかにし、この不均質が断層運動に伴う隆起と、地形による地下水流動に支配されていることを解明しました。

本研究成果は、2017年6月1日に英国の科学誌「Nature」に掲載されました。

研究者からのコメント

断層面上の温度と流体圧は、断層岩の変形と鉱物組成、さらには断層の強度・すべり特性の分布を支配しています。一般的にプレート境界断層上の温度と流体圧の分布は未解明の状態であるが、本研究ではアルパイン断層の温度不均質性などを明らかにしました。断層面上におけるすべり挙動の不均質性に関する証拠も得られたことで、地震時の断層挙動予測への寄与が期待されます。

本研究成果のポイント

  • オーストラリアプレートと太平洋プレートの境界断層、アルパイン断層において、断層面上に大きな温度不均質を発見。この温度不均質が、断層運動に伴う隆起と、隆起による地下水循環に支配されていることを解明
  • これまで困難であった断層面上の温度分布の推定が、断層掘削と数値計算により可能に
  • 断層面上の温度分布は断層強度に影響を与えることから、強度分布の推定に基づく地震動予測への応用に期待

概要

ニュージーランド南島西海岸のアルパイン断層は、平均約300年の間隔で大地震を発生させている活動度の高い断層で、最近では1717年に活動しています。アルパイン断層における次の地震発生時期が近いこと、隆起速度が速いことから、深部における地震発生過程の理解に都合がよいため、ニュージーランド南島西海岸のファタロア川(Whataroa River)で、断層掘削計画「アルパイン断層深部掘削プロジェクト(Alpine Fault, Deep Fault Drilling Project:DFDP)」が2014年に行われました。

本研究グループは、断層の強度を支配する重要なパラメータである温度分布と流体圧について、光ファイバー温度計により地下温度を、水理試験(ボーリングの掘削孔に対し、孔内の水位を人為的に変化させ、その後の回復状況を測定することで孔周囲の岩盤の透水性などの水理学的性質を調べる手法)により流体圧を測定しました。

その結果、一般的な大陸地殻の値の4倍の、非常に高い地温勾配(地下深度に対する温度上昇率)が見つかりました。過去の断層掘削に基づくアルパイン断層上盤の地温勾配は、一般的な大陸地殻の値の2倍程度の値であり、アルパイン断層面上には大きな温度不均質があります。本研究では、測定された温度と流体圧を数値計算し比較することで、断層面上の温度不均質が推定され、その原因が断層運動に伴う隆起と、隆起による地下水循環であることを明らかにしました。

図:アルパイン断層の分布と掘削地点

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/nature22355

Rupert Sutherland, John Townend, Virginia Toy, Phaedra Upton, Jamie  Coussens, Michael Allen, Laura-May Baratin, Nicolas Barth, Leeza  Becroft, Carolin Boese, Austin Boles, Carolyn Boulton, Neil G. R.  Broderick, Lucie Janku-Capova, Brett M. Carpenter, Bernard Célérier,  Calum Chamberlain, Alan Cooper, Ashley Coutts, Simon Cox, Lisa Craw,  Mai-Linh Doan, Jennifer Eccles, Dan Faulkner, Jason Grieve, Julia  Grochowski, Anton Gulley, Arthur Hartog, Jamie Howarth, Katrina Jacobs,  Tamara Jeppson, Naoki Kato, Steven Keys, Martina Kirilova, Yusuke  Kometani, Rob Langridge, Weiren Lin, Timothy Little, Adrienn Lukacs,  Deirdre Mallyon, Elisabetta Mariani, Cécile Massiot, Loren Mathewson,  Ben Melosh, Catriona Menzies, Jo Moore, Luiz Morales, Chance Morgan,  Hiroshi Mori, Andre Niemeijer, Osamu Nishikawa, David Prior, Katrina  Sauer, Martha Savage, Anja Schleicher, Douglas R. Schmitt, Norio  Shigematsu, Sam Taylor-Offord, Damon Teagle, Harold Tobin, Robert  Valdez, Konrad Weaver, Thomas Wiersberg, Jack Williams, Nick Woodman &  Martin Zimmer (2017). Extreme hydrothermal conditions at an active  plate-bounding fault. Nature, 546, 137-140.

  • 日本経済新聞(6月16日)、静岡新聞(6月17日)、信濃毎日新聞(6月17日)に掲載されました。