簡便に細胞の分化を継続的に可視化する技術を開発

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中西秀之 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)特定研究員、齊藤博英 同教授らの研究グループは、吉田善紀 同准教授らとの共同研究により、細胞の分化を継続的に可視化する、簡便で低コストな技術を開発しました。

本研究成果は、2017年3月2日にオランダの科学誌「Biomaterials」でオンライン公開されました。

研究者からのコメント

左から、齊藤教授、中西特定研究員

今回の研究で開発した技術は、一度の遺伝子導入で生きたままの細胞が分化していく様子を継続的に可視化することを可能にしました。また、遺伝子を導入する際にウイルスを使わないため、多くの研究施設で利用可能な技術です。

本技術では蛍光タンパク質をつくる遺伝子を導入するため、人に移植するような細胞の選別に応用することは想定しておりませんが、創薬研究や分化プロトコルの改善などの基礎研究への応用が期待されます。

本研究成果のポイント

  • 細胞内には、細胞種によって異なる活性をもつマイクロRNA(miRNA。タンパク質をコードしていない、20から30塩基程度の短いRNA)が存在する。
  • 細胞内のmiRNA活性に反応するDNAを非ウイルス性のベクター(目的の細胞に特定の遺伝子を導入するために使われる遺伝子の運び屋)を用いてiPS細胞に導入し、その細胞の状態を可視化できる技術を開発した。
  • 生きたiPS細胞が分化していく過程をリアルタイムで可視化できた。
  • 心筋細胞で特異的活性の高いmiRNAを利用することで、iPS細胞から分化した細胞群から心筋細胞を選別できた。

概要

細胞内には、細胞種によって異なる活性をもつmiRNAが存在し、細胞のマーカーとしての利用が有望視されています。

本研究グループは、ヒト多能性幹細胞で高い活性を示すmiRNAに反応するDNA配列と、目印となる蛍光タンパク質を作る遺伝子を、非ウイルス性のベクターを用いてiPS細胞に導入しました。

蛍光強度を調べることで、対象となるmiRNAの活性、ひいては細胞の状態を可視化することが可能となり、例えば、iPS細胞が他の細胞に分化していく様子を継続的に調べることができるようになりました。また、心筋細胞で活性が高いmiRNAに反応するDNA配列を同様にiPS細胞に導入することにより、そのiPS細胞から分化した心筋細胞を、それ以外の細胞から選別することにも成功しました。

図:今回開発した技術の概要

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2017.02.033

Hideyuki Nakanishi, Kenji Miki, Kaoru R. Komatsu, Masayuki Umeda, Megumi Mochizuki, Azusa Inagaki, Yoshinori Yoshida, Hirohide Saito. (2017). Monitoring and visualizing microRNA dynamics during live cell differentiation using microRNA-responsive non-viral reporter vectors. Biomaterials, Volume 128, Pages 121–135.

  • 京都新聞(3月17日 27面)、産経新聞(3月18日 25面)および読売新聞(3月17日夕刊 11面)に掲載されました。