単体サンゴとホシムシとの「賃貸共生」 -共生の成立・維持過程に迫る-

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井川桃子 人間・環境学研究科修士課程学生、加藤真 同教授、畑啓生 愛媛大学准教授らの研究グループは、ムシノスチョウジガイ属とスツボサンゴ属のサンゴに共生するホシムシが二つの遺伝的グループに分かれており、さらにホシムシの形態が宿主であるサンゴの内部構造によって決定されていることを発見しました。

本研究成果は、2017年1月11日にオンライン学術雑誌「PLOS ONE」に掲載されました。

研究者からのコメント

ムシノスチョウジガイ属とスツボサンゴ属のサンゴは、環形動物のホシムシと共生することで砂泥底を自由に動きまわって生活していま す。サンゴがホシムシの宿となり、ホシムシはその対価としてサンゴを牽引する-このような、「賃貸共生」ともいうべき共生関係がいかに成立し維持されてきたのかは非常に興味深い問題です。本研究では、それぞれのサンゴに共生するホシムシの比較を行い、 ホシムシが二つの遺伝的グループに分かれていること、そしてホシムシの形態が宿主であるサンゴの内部構造によって決定されていることを明らかにしました。

概要

イシサンゴ目のムシノスチョウジガイ属とスツボサンゴ属のサンゴは、環形動物のホシムシと共生することで砂泥底を自由に動き回って生活する単体サンゴです。ホシムシはサンゴの内部にある渦巻形の空洞に棲み込み、サンゴを引きずって動きまわるとともに、砂泥中への埋没からサンゴを救出します。一方、サンゴはホシムシに棲み家を提供し、ホシムシを捕食者から防衛していると考えられています。

二属のサンゴは系統的に全く異なりますが、ホシムシとよく似た共生関係を築いています。しかしながら、二属のサンゴに共生するホシムシが全く同じ種なのかどうかについては、同じ種だとする説もあれば別々の種だとする説もあり、未解決の疑問となっていました。二属のサンゴ間でホシムシを比較することは、これらのサンゴでよく似た共生関係が成立した過程を解明することにつながります。

そこで本研究グループは、沖縄県金武湾にてサンゴの観察や採集を行い、サンゴとホシムシの形態を調べました。

形態観察の結果、二属の単体サンゴの中に棲むホシムシはすべてタテホシムシ属に分類されました。これらのホシムシのDNAに基づき系統解析を行った結果、ホシムシは二つのクレード(遺伝的なグループ)に分かれており、いずれのクレードに属するホシムシも二属の単体サンゴ両方に共生していることが明らかになりました。また、それらのホシムシの形態は共生するサンゴの属によって異なり、ホシムシのクレードにかかわらずサンゴの内部構造(渦巻形空洞の形)と一致していました。

図:ホシムシの形態

クレード1(a、c)とクレード2(b、d)のホシムシ。aとbはムシノスチョウジガイに、cとdはスツボサンゴにそれぞれ共生していたもの。同じクレードに属するホシムシでも、どちらのサンゴに共生するかによってずいぶんと形が違う。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://doi.org/10.1371/journal.pone.0169825

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217878

Momoko Igawa, Hiroki Hata, Makoto Kato. (2017). Reciprocal Symbiont Sharing in the Lodging Mutualism between Walking Corals and Sipunculans. PLOS ONE 12(1): e0169825.