昭和東南海地震以降初めての中規模プレート境界地震発生過程をとらえた-リアルタイム観測網の統合的データ解析-

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木下千裕 理学研究科博士課程学生(James J. Mori研究室所属)、荒木英一郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構主任技術研究員、小林励司 鹿児島大学准教授らの研究グループは、テキサス大学、ペンシルバニア州立大学などと共同で、2016年4月1日に三重県南東沖で発生したマグニチュード6.0の地震発生プロセスの解析を行い、南海トラフの東南海地震想定震源域としては72年ぶりに発生した、マグニチュード6以上のプレート境界地震であることを明らかにしました。

本研究成果は、2016年11月18日付けで科学誌「Journal of Geophysical Research」に掲載されました。

研究者からのコメント

今後、地震・津波観測監視システム(DONET)の海底観測網と長期孔内観測などによるリアルタイムの海底観測技術をさらに発展させ、掘削や構造探査による高度なプレート境界震源断層構造の理解と合わせることによって、海底地殻変動や地震活動の状態と推移を把握し、東南海地震をはじめとする南海トラフの地震の発生メカニズムや予測研究の高度化に貢献していきたいと考えています。

概要

南海トラフ沿いでは、マグニチュード8クラスの巨大地震が歴史的には100年から150年の間隔で起きています。直近では1944年に東南海地震、1946年に南海地震が発生し、約70年が経過しています。政府の地震調査研究推進本部では、南海トラフでマグニチュード8から9クラスの地震が30年以内に発生する確率を60から70%としており、現在は次の巨大地震が起こる前段階にあるものと考えられています。このような状況の中、南海トラフで繰り返し起こる巨大地震がどのようなメカニズムで発生しているのか、そして現在はどのような状況にあるのかを知るために、地殻構造探査、掘削調査、海底観測網および掘削孔内観測装置の開発・設置が進められてきました。そういった状況の中、2016年4月1日に三重県南東沖においてマグニチュード6.0の地震が発生しました。

そこで本研究グループは、地震発生域近傍で展開されていたDONETおよび長期孔内観測装置(地震断層の直接モニタリングにより、リアルタイム情報提供を目的とした観測システム)から、地震・地殻変動・津波の連続観測データを得て、これまでの海底下構造探査の結果と合わせて統合解析を行いました。

その結果、プレート境界面近傍に地震活動が集中していることが明らかになり、南海トラフの海底下プレート境界での地震発生・海底地殻変動と津波発生の複雑な過程をとらえることができました。今回の地震がプレート境界で発生したことは、この地域で1944年の東南海地震後、歪蓄積が進行していることを示しており、震源域近傍での海底地殻変動を高精度で注意深く監視する必要性を示しています。

図:南海トラフ域の沈み込むフィリピン海プレート境界面の性質を表す模式図

2016年4月1日の三重県南東沖の地震は、マグニチュード8級巨大地震発生域の上限付近で、中規模の不安定すべり領域を破壊したものと考えられる。言い換えれば、浅部低周波地震現象が特徴的に見られる条件付き安定領域の下限付近で発生していると考えられる。安定から不安定すべり領域の遷移域で、今回の2016年4月1日のようなマグニチュード6規模の地震を起こす領域が存在していることが示唆される。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://dx.doi.org/10.1002/2016JB013417

L. M. Wallace, E. Araki, D. Saffer, X. Wang, A. Roesner, A. Kopf, A. Nakanishi, W. Power, R. Kobayashi, C. Kinoshita, S. Toczko, T. Kimura, Y. Machida, and S. Carr. (2016). Near-field observations of an offshore Mw 6.0 earthquake from an integrated seafloor and subseafloor monitoring network at the Nankai Trough, southwest Japan. Journal of Geophysical Research: Solid Earth.