衛星時代前のプラズマ環境を推定‐1958年頃と1970年頃はプラズマの重さが約2倍に?‐

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能勢正仁 理学研究科助教らの研究グループは、地上で古くから計測されてきた地磁気(地球の持つ磁場)の変化を記録したデータを利用して、1956年から1975年のプラズマ環境、特にプラズマの重さがどのように変化しているかを推定することに世界で初めて成功しました。

本研究成果は、アメリカ地球物理学連合が発行する「Journal of Geophysical Research誌」のWEB版に2016年5月17日に掲載されました。

研究者からのコメント

「温故知新」という言葉がある通り、古き時代の宇宙環境を知ることは、今後の変化を予測する上で大変重要なことです。アナログデータをデジタル化することで、データを取得された先人の努力を無駄にすることなく、今回のような研究成果を得ることができました。作成したデジタルデータは、誰もが将来の研究に活かせることができるようにページ下部の関連サイトで公開しています。

概要

気象衛星ひまわりや放送衛星(CS/BS)が飛翔している地球周辺の宇宙空間は、真空ではなく、荷電粒子からなるプラズマで満たされています。このプラズマ環境は、ちょうど地球上で大気環境が暑くなったり寒くなったり蒸し暑くなったり乾燥したりするのと同じように、大きく変化することが分かっています。現代では、こうした「宇宙の天気」を調べるために、科学衛星が多数打ち上げられています(図)。

将来的に地球周辺のプラズマ環境がどのように変わっていくかを理解するためには、昔の環境を知ることが重要になります。しかしながら、人工衛星の時代が幕を開けたのはスプートニク1号が打ち上げられた1957年からで、定常的にプラズマの環境が計測され出したのは1960年台半ばから後半以降であり、それより昔の時代にプラズマ環境を直接観測したデータはないので、何らかの方法で推定するしかないというのが実情でした。

本研究グループは、プラズマ環境を推定するため、印画紙に記録していた地磁気の記録をスキャナーで電子画像に変換し、その電子画像から線を自動的に読み取ってデジタルデータを作成する、という2段階で地磁気のデジタルデータ化を行いました。この方法によって、科学衛星による観測が一般的になる以前の1956‐1975年の地磁気の変動をコンピューターで扱えるようになりました。

次に、地磁気の振動現象を選び出し、その振動数から宇宙空間のプラズマ環境の推定を行いました。プラズマが軽ければ、地磁気の振動数が高くなり、プラズマが重ければ、地磁気の振動数が低くなるという原理を応用しています。

この結果、1964年頃と1975年頃は、プラズマはほとんどすべてが水素イオンでできていましたが、1958年頃と1970年頃は、7-10%程度の酸素イオンが混じっており、全体の重さとしては2倍以上に変化していたことが明らかになりました。

図1:地球周辺の宇宙空間に存在するプラズマとそれを観測する科学衛星のイメージ。
(本イラストに描かれた衛星は、打ち上げ予定のジオスペース探査衛星ERG(提供JAXA))

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1002/2016JA022510

K. Yamamoto, M. Nosé, N. Mashiko, K. Morinaga and S. Nagamachi. (2016). Estimation of magnetospheric plasma ion composition for 1956–1975 by using high time resolution geomagnetic field data created from analog magnetograms. Journal of Geophysical Research: Space Physics

関連サイト

World Data Center for Geomagnetism, Kyoto
http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/

気象庁地磁気観測所
http://www.kakioka-jma.go.jp/